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星の降る夜
理一は関西から来た上京組である。
出会った最初の頃は関西弁のイントネーションが新鮮で、今後の役に活かせるだろうと、しきりに真似をした。おそらく、そんな奇妙なことをしてたから、意地悪な奴だと思われて嫌われたんだと思っている。
まぁ、今は仲良くしてるし、俺がちょっと変わってるのは理一も嫌ってくらい承知しているから問題ない。
「グループ?!」
「一斗! 声が大きいよ」
「いや、誰も聞いちゃいないだろ」
俺の住んでいるボロマンションの屋上。共同洗濯干し場になっているそこで、二人して寝転がっている。月のない夜で、都内にしては珍しく星が綺麗に見えている。
「まだ事務所の一部の人しか知らないんだよ」
事務所のイメージ戦略というやつのおかげで、彼は慣れ親しんだ言葉を捨ててしまった。理一のことだから素直に順応したんだとは思うけれど、今や意識的に覚えた俺の方が方言を話している時がある。
「君のところの事務所は考えがコロコロ変わりますね〜」
勿論、嫌味である。
「理一をどうしたいんだか」
「戦隊シリーズの主役をやらせてもらったから、そのまま役者になるのかなって思ったんだけど、違うんだね」
「違うんだねじゃねぇし。最終的には自分で決めるもんだよ」
ついつい呆れたように言ってしまったが、別にそう思っているわけではない。自分が大成しないのは我が強すぎるからだと分析しているから、理一のスポンジみたいな吸収率の良さに感嘆してしまうのだ。
「俺を求めてくれる人がいるなら、期待に応えたいと思うし。今は何をやっても新しくて楽しい」
俺ができないような主役級の役に抜擢される存在であるけれど、不思議と嫉妬の感情だけには囚われない。自分に足りないものを見せつけられて悔しさはあるけれど。
「いつか二人で一緒にドラマとかやりたいな」
「それ良い! じゃあ、やっぱり役者仕事取ってきてもらう!」
「じゃあってなんだよ!」
心の声が思わず口から溢れたのに、静かな夜が理一の耳に運んで行ったみたいだ。
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