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二人の曲
「良いじゃん!バンドのボーカル!」
鍋をつついている一斗からは予想外のリアクションが返ってきた。
「俺さ、俳優辞めて音楽やろうかなとか考えたりもするわけよ」
「え!?そうなんだ!初耳」
確かに一斗はとても歌が上手いのだ。俺の知らないような音楽もたくさん知っている。
「アイドルバンドとは言っても、本格的にやるんだろ? 良いと思うよー、俺、理一の歌好きだよ」
「告白された」
「あほ。冗談だよ」
口の中をご飯でいっぱいにして笑い合う。
「10代後半の男ばっかりでやろうって言ってるから、ロックが良いんじゃないのって言われてて」
「なんか不満なん?」
「いや、俺さ、スピッツとかしか聞いてないし」
「スピッツもロックバンドだよ。笑っちゃうじゃん、やめて」
ご飯粒が鼻の方に行っちゃったと、一斗は大騒ぎをする。
「どうした。やけに憂鬱だな?」
「自分で曲を作るわけでもないのに、どこがロックなんだろって」
「え、真面目」
「茶化してる?」
一斗の眉が下がって叱られた子犬みたいな顔になっている。
「俺、実は曲作れるよ」
鍋から具材を掬いながら、さらっと格好いいことを呟く一斗。
「うそ!?」
「ほんと、ほんとー」
この時から、夢語りとゲーム以外に曲作りが加わったのは言うまでもない。
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