二人の曲

1/1
前へ
/16ページ
次へ

二人の曲

「良いじゃん!バンドのボーカル!」  鍋をつついている一斗からは予想外のリアクションが返ってきた。 「俺さ、俳優辞めて音楽やろうかなとか考えたりもするわけよ」 「え!?そうなんだ!初耳」  確かに一斗はとても歌が上手いのだ。俺の知らないような音楽もたくさん知っている。 「アイドルバンドとは言っても、本格的にやるんだろ? 良いと思うよー、俺、理一の歌好きだよ」 「告白された」 「あほ。冗談だよ」  口の中をご飯でいっぱいにして笑い合う。 「10代後半の男ばっかりでやろうって言ってるから、ロックが良いんじゃないのって言われてて」 「なんか不満なん?」 「いや、俺さ、スピッツとかしか聞いてないし」 「スピッツもロックバンドだよ。笑っちゃうじゃん、やめて」  ご飯粒が鼻の方に行っちゃったと、一斗は大騒ぎをする。 「どうした。やけに憂鬱だな?」 「自分で曲を作るわけでもないのに、どこがロックなんだろって」 「え、真面目」 「茶化してる?」  一斗の眉が下がって叱られた子犬みたいな顔になっている。 「俺、実は曲作れるよ」  鍋から具材を掬いながら、さらっと格好いいことを呟く一斗。 「うそ!?」 「ほんと、ほんとー」 この時から、夢語りとゲーム以外に曲作りが加わったのは言うまでもない。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加