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最終話
「あなたが思っているとおりですよ」
背後から声がした。びっくりしてふりかえると、もうひとりの自分自身がいた。
「わたしはあなたより数時間前に、ここに入ってきたわたしです。そしていまだに、出口がみつかりません」
なんてことだ。
数時間後もまだ、わたしはここに閉じこめられている。
もうひとりのわたしは、話をつづける。
「ざっと確認したところ、そう多くはないようです。現時点では、ここにいるわたしの人数は、あなたをふくめても、まだ数人というところでしょう。ということは、いずれは出口をみつけて、無事脱出できたわたしがいるということか、もしくは……」
ごくり。わたしは、息をのんだ。
「もしくは、わたしたちは、この現象が起きはじめた、ごく初期のメンバーで、今後ひとりも脱出できない可能性も……」
「どうなるんでしょうね。もし、このまま脱出できずに、ずっと増えつづけたりしたら」
ここは、三時を何度もくりかえす。三時になるたびに、わたしが増える。
もしも、わたしたちが、このまま永遠に出口をみつけられないのだとしたら。
いつかこの部屋は、わたしでいっぱいになる。
それまでには、まだずいぶんと時間がかかるだろう。
でもいつか、もうこれ以上、ほんのひとり分のすきまもないほど、天井までいっぱいに、この空間ぎゅうぎゅうに、わたしがつめこまれたら。
次の三時はどうなってしまうのだろう。
これからのことを想像して、わたしは背筋がさむくなるのを感じた。
ボーン、ボーン、ボーン。
時計がなった。また、わたしがあらわれた。
あたらしい「わたし」が入ってくるとき、ほんの一瞬でも扉があらわれて、そこから脱出できないものかと、じっと目をこらした。
しかし、壁は壁のままだった。
ただなんとなく、一人増えただけだった。
まだわたしたちは、誰ひとり出口をみつけていない。いつか、みつかるものなのだろうか。それとも……
ボーン、ボーン、ボーン。
また、三時がやってきた。わたしが、もうひとり増えた。
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