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10分後、ルナは正気に戻った。
考えても仕方ないことを悟ったようだ。
作業に取りかかろうとした瞬間、左手首の水色の数珠が1つ光った。
辺りを見渡すと、ルナと同じくらいの年頃の女の子が木の下でうずくまって泣いている。
(どうしたんやろ?)
ルナは女の子に近づいて肩に触れた。
(大丈夫?)
「誰?」
驚いた女の子は慌てて涙を手で拭って、立ち上がった。
(ここではテレパシーは通じないぞ)
レイはルナを見て、
「ワン」
と吠えた。
(あっ、そうだった)
「びっくりさせてごめん。私はルナ。どうして泣いてるん?」
ルナは女の子の顔を覗きこんだ。
女の子は驚いた顔をして、
「何でもない」
と言ってその場を立ち去ろうとした。
つかさずルナは女の子の腕を掴んでにっこりと微笑んだ。
「ちょっとの間はここにいるから、言いたくなったらおいで」
女の子はうつ向いたまま、ゆっくりルナの手を振り払って走っていった。
レイはただただ土を掘っていた。
(あんた、さっきから何してんの?)
( え? 何でもいいだろ。犬になりきってるんだ……。それにしても、ルナって本当におせっかいだよな。やることだけやればいいんだよ)
(あんたは相変わらずやな。見た目だけじゃなく、中身も変えれたら良かったのになぁ)
(うるさい。さっさと作業に取りかかれよ)
(言われなくてもやってます)
今は青々と繁ってもいい季節のはずなのに、この公園の木々はどれも元気がなかった。
ルナは枯れかけている木の葉に向かって両手をかざした。
ルナの手の平から光の光線が出て、みるみるうちに葉が青々と甦っていった。
レイは地面を掘り、小さな光の玉を地面に埋めている。
夕焼け空になる頃、公園にある全ての木がいきいきと青々した葉を繁らせて、そよ風に揺れていた。
(今日、これくらいでいいかな。ちょっと疲れたわ)
(そうだな)
ルナはベンチに座り、レイはベンチに寝そべった。
(お腹空いてきたから、何か食べよう)
(いいな。俺は焼きそば。一度、食べてみたかったんだ)
(あんたは犬なんだから、ドックフードでしょ)
(何だよ、それ。俺はどうして犬なんかに。どうして俺は……)
(残念でした、ご愁傷さま。私はから揚げにしよっと)
(唐揚げ!俺にも分けてくれ。1つくらいいいだろう。って、気を付けろよ。誰にも見つからないようにしろよな)
(大丈夫、大丈夫)
ルナは頭の中で想像した。
白いおぼんの上に、白いお皿の半分にキャベツの千切りとカットされたレモン。
あと半分は揚げたてほかほかの唐揚げが山盛り。
ピンクの花柄のお茶碗に炊きたてのご飯。
緑の湯飲みには温かいほうじ茶。
黒いお箸。
(ヤバい。よだれが……)
そして、黄色のカップにドックフード。
その瞬間、ルナの膝の上に想像したままの物が現れた。
(はい、ドックフード)
ルナは隣で項垂れているレイの横に黄色のカップを置いた。
(ルナ、お前は本当に悪魔だな。帰ったら覚えておけよ)
(はい、はい)
ルナはレイの言葉を聞き流して、料理を食べ始めた。
(ヤバい、美味しすぎる。地球最高。来て、本当に良かった)
(ルナ、マジで覚えておけよ)
レイは仕方なくドックフードをカリカリと食べ始めた。
(うん?意外といけるぞ。悪くない)
(じゃ、良かったやん)
(うん、良かった。いや、良くない。全然良くないぞ)
その後、ルナのから揚げを二人で取り合ったのはいうまでもない。
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