第1章(友達)

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次の日、ルナは日があけると同時に目を覚ました。 ぐっすり寝ているレイの頭を叩いて起こし、外に出ていった。 (いたっ) (見張りが寝るな!) (ルナ、本当に許さないぞ) (望むところや!) 二人がバトルを繰り広げようとした瞬間、 「あの……」 女の子の声がした。 二人(一人と一匹)は声のする方を振り返った。 (あっ、昨日の子やん) (おぉ、昨日の子だ) 「おはよう。起きるの早いなぁ」 ルナはにっこり微笑んだ。 「うん」 女の子はうつむき加減でもじもじとしている。 「なんか話したいことあるんやったら、なんでも聞くで」 「うん……」 「名前は?私はルナ。この小さいのがレイ」 紹介されて嬉しくなったレイは、尻尾をおもいっきり振っている。 「いえり。小野いえり」 「いえりちゃんか。可愛い名前やなぁ」 「ありがとう」 「どういたしまして」 ルナは照れ笑いをして、頭をかいた。 「あのね……」 「うん。あっ、そこのベンチに座れへん?」 「うん、そうだね」 三人(二人と一匹)はベンチに座り、いえりが話し出すのを待った。 「まこちゃんっていう友達がいるんだけど……。昨日、家に遊びに行った時、まこちゃんが大切にしている物を壊してしまって……。怖くなって、何も言えなくて勝手に持ってきてしまったの」 いえりはスカートのポケットから小箱を出して、目から涙をぽとぽととこぼした。 「そっか。大変やったなぁ」 ルナはいえりの背中を優しく叩いてから頭を撫でた。 「いえりちゃん、大丈夫やで。心配せんでいいで。今から言うことは秘密にしてや。絶対に誰にも言うたらあかんで。約束やで。実はな、私魔法使いやねん」 (お前はアホか) レイがルナのズボンを噛んで引っ張った。 (いいから黙ってて) 「え?」 いえりは口をぽかんと開けたまま、ルナを見つめている。 「あれ?いえりちゃん、もしかして疑ってる?」 「だって、魔法使いなんていうから」 「びっくりした?驚かせてごめんなぁ。でもこの小箱くらいやったら直せるで」 「え?直せるの?」 「そんなん簡単やわ。見てて」 ルナはいえりが持っている小箱のその上に自分の右手を乗せて目を閉じた。 「いえりちゃんも目を閉じて、小箱が直って嬉しい顔をしている自分を想像してみて」 「うん、やってみる」 いえりは目を閉じて、小箱が直って喜んでいる自分を想像した。 いえりの表情が緩んだ。 その瞬間、二人の手から光が出て、小箱の壊れている金具が直っていく。 「いえりちゃん、出来た?」 「うん、出来たよ」 「いえりちゃん、凄いなぁ。じゃ、目を開けて」 いえりが目を開ける少し前に、ルナは目を開けた。 そして、ゆっくりと小箱に乗せている手を退けた。 いえりは小箱を見て、 「あっ、直ってる。凄い、本当にルナちゃんは魔法使いなんだね。ありがとう」 尊敬の眼差しで、ルナを見つめた。 「違うちがう。魔法使いは私じゃなく、いえりちゃんやで」 「え?」 いえりは意味が分からなくて、それ以上言葉が出てこなかった。 「これはいえりちゃんが直したんやで。ちょっとは私も手伝ったけどな。いえりちゃんがこの小箱を直したいっていう気持ちが強かったから、この小箱が直ったんや。まこちゃんへの気持ちが魔法になったんよ」 「そんな不思議なことがおきるんだね」 「そうやで。人の思いって凄いよ。いえりちゃん、これからもピンチの時は、今日みたいにやってみて。きっと魔法が使えるから」 (確か、兄貴に困っている人がいたらこれを渡せって……) 「いえりちゃん、それからこれ」 ルナは鞄から赤い袋を出し、その中から水晶玉を一つ取り出してみさきに渡した。 「これは?」 「これは魔法の玉みたいなもん。いえりちゃんを守ってくれるから、肌身離さず持ってて」 「うん、ありがとう。大切にするね。今日、かなちゃんにきちんと話して、この小箱を返してくる。勝手に持って来たから怒られるかも知れないけど」 「心配せんでもきっと大丈夫や。いえりちゃんの気持ち、まこちゃんは分かってくれるよ」 「うん、そうだね。ありがとう。じゃ、行ってくる」 いえりは何度も振り返りながら公園を出ていった。
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