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不意に、スライドドアの向こうで空気が動く。
それに気付いた男は、ゆらりと少女に微笑みかけた。
「今日は忙しいね。また誰かが落としものを探しにきたらしい」
「みたいですね」
男が、スライドドアのノブに白く美しい手をかける。
男はそれをゆっくりと静かに引き開けると、白壁の待合室で戸惑うように立ち尽くしている女性に優美に微笑みかけた。
「次の方、どうぞ」
男の琥珀色の瞳と視線が交わった女性が、引き寄せられるように歩み寄ってくる。
「貴女が落としたのは、何色でしょう?」
高く低く、不思議に響く男の声を掻き消すように、白のスライドドアが音もなく閉まっていった。
《Fin》
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