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「私に迷惑ばかりかけるところも、かっとしたらすぐに手が出るところも、人の気持ちを考えられないところも、出て行ったあんたの父親にそっくり」
母の声に僅かな憎しみと嫌悪がこもる。
母親にとってはもう二度と顔を見たくないような相手でも、健斗にとっての父親はただ悪いばかりの人ではなかった。
だが、母から愚痴を聞かされてきたこの二年の間に、健斗の父親に対する印象はすこぶる悪くなってしまった。
「あんたは父親にそっくりだ」と母に罵られるたびに、健斗自身が全て否定されているような気持ちになる。
「あんたも、あのとき父親に連れて行ってもらえばよかった」
ぽつりと零された母のひとことで、この二年間ギリギリのところで繋がっていた健斗の心の糸がプツンと切れた。
「おれだって、早く出て行きたいよ。こんなとこ」
健斗が低い声でそう言った瞬間、はっとしたように黙り込んだ母の顔が歪む。
母の愚痴に健斗が反抗的な言葉を返したのは、それが初めてだった。
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