ロスト・メモリ

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母の顔色がみるみるうちに青ざめていくのが、暗がりの中でもよくわかる。 罪悪感がないわけではないけれど、いつも言われてばかりの母親をやり込められたような気がして、少し清々しくもあった。 怒りとも悲しみともとれる色に揺れる目で健斗を凝視する母の顔を見つめる。 いつのまにかまともに目も合わせなくなった母は、前からこんな顔をしていただろうか。 眉間に皺が寄り、常に目尻がつりあがっている母も、昔はよく笑っていたような気がする。 母さんが笑った顔って、どんなだったっけ?もう、忘れたな。 いいや、どうせ。母さんはおれがいなくなったほうが楽になる。 そう思ったら、母から離れて駆け出さずにはいられなかった。
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