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「健斗!」
健斗の背中から、母の甲高い声が追いかけてくる。
今日初めて名前を呼ばれたような気がしたけれど、そんなことはもうどうでもよかった。
行くあてなどないが、母親と家に帰るという選択肢は健斗のなかで消えていた。
少しでも速く、遠くまで逃げてしまいたくて、横断歩道が見える前に歩道から飛び出す。
母から遠ざかることしか考えていなかった健斗の視界には、緩やかなカーブを曲がって下ってくる車が見えていなかった。
「健斗、危ない!」
健斗の背後で母の悲鳴が聞こえる。
勢いづいて車道に転がり落ちた健斗の身体が、何かにぶつかって地面に打ち付けられた。
タイヤの擦れる音が耳をつんざくように高く響き、暗闇から突き刺してくるようなライトの光に目が眩む。
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