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「け、んと…… 」
朦朧とした意識のなかで、健斗の耳に届いたのは母親の声だった。
開けているのも辛いくらいの瞼を懸命に持ち上げると、健斗のすぐ目の前に泣きそうな顔をした母がいる。
「けん、と……だいじょ、ぶ?痛いとこ、ない────?」
辛そうに呼吸しながら健斗を見つめる母は、温かくて懐かしい、とても優しい目をしていた。
母のそんな眼差しを、健斗はもうずっと昔に見たことがある。
健斗がもっと小さかった頃、父親がいた頃。母はいつもこんな目をしていた。
何があっても健斗を守ってくれる、母の優しい眼差しが好きだった。
困らせたいわけじゃない。
心身ともに疲れていく母親と、だんだんとどう接すればいいのかわからなくなって。どうすれば自分に目を向けてくれるのか、ずっともがいていて。
でも本当は昔みたいに、ただ優しく笑いかけてほしかった。
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