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無人の待合室の壁は、眩しいくらいに白かった。
どこかで誰かを待っていたような気がするが、少なくともそこは、こんなにも無音で色のない、無機質な場所ではなかったはずだ。
辺りを見回しているうちに、じわじわと胸に違和感が広がってくる。
この待合室は全面白壁で囲まれていて、窓がない。
病院の受付に似た窓口があるが、そこはぽっかりと空洞があるだけで全く人の気配がしなかった。
待合室の中には、少年が座っている白の長椅子が一脚。その前に白のスライド式のドアがあるが、それ以外に出入り口と思しきドアはない。
奇妙な雰囲気だが全く恐怖は感じない。全ての感情が鈍くなって、白い壁と同化していくようだった。
少年がぼんやりと虚空を見つめて座っていると、不意に目の前の白いスライドドアがゆっくりと動いた。
中から出てきたのは、腕に何かを大切そうに抱いた若い女の人。
真っ白な布に包まれた彼女の腕のなかを覗き見ることはできないが、赤ん坊でも抱いているのだろうか。
彼女は腕の中にあるものだけをとても優しい眼差しで愛おしそうに見つめていて、待合室の椅子に座る少年に気付く様子もない。
そんな彼女を眺めていた少年の胸に、ふわっと懐かしい温かさが過ぎる。だが、それが何で、どこからくるものなのかはわからなかった。
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