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「おふたりとも、無事に戻れましたかね?」
「たぶんね」
待合室の受付から顔を覗かせた少女の言葉に、男が曖昧に笑う。
「彼らはラッキーだったんだよ。ここに来たからといって、落とした記憶の全てが見つかるとは限らない。ここに届かずに行方不明なままの記憶もあるし、バラバラになってしまって繋がっていないものもある。そもそも、落とした人がそれを失くしたことに気付かなければ、時とともに色褪せて、最後には消えてなくなってしまう」
「そうなったら、哀しいですね」
「そうだね」
少女が瞳を曇らせるのを見て、男の琥珀色の瞳も憂いて揺れた。
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