ロスト・メモリ

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スライドドアの向こう側には、待合室と同じ真っ白な壁が続いていた。 広さも作りも、さっきの待合室とほとんど変わらない。スライドドアは、ふたつの部屋を区切るただの境目のようだった。 この部屋とさっきの待合室との違いは、長椅子の代わりに白いシングルソファーと横長の白い棚が置いてあること。 病院の診察室のようだが、それにしては殺風景で物がなさすぎる。 少年をドアの中に導いた男は、その部屋で異様な存在感を放っている白い棚の前で振り向いた。 「健斗くん、だね?」 確認されたが、全くピンとこない。 少年には、男に呼ばれたその名前が本当に自分のものなのかもよくわからなかった。 「そうか。記憶ごと、全部一緒に落としてきてしまったんだね」 そう言った男の琥珀色の瞳が、物悲しげに揺れる。 憂いを帯びたその表情が、男の整った綺麗な顔をより美しく見せていた。
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