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スーパーの事務所を出ると、辺りはもうすっかり夜の闇に包まれていた。
少し前を歩く母が、腹立たしげにヒールの靴音をカツカツと鳴らす。
「今日は大事な会議があったのに、同僚に頭を下げまくって仕事を抜けてきたのよ。あんたが問題を起こすたびに、上司には呆れ顔で見られて、『これだから父親がいない家は……』って同僚からは陰口を叩かれる。私がどれだけ頑張っても、あんたのせいで全てが台無しになる」
事務所を出た途端に、母の愚痴が始まった。
疲れているのか、その声はいつもに増してヒステリックだ。
母の愚痴が続くあいだは、黙っておとなしくしておいたほうがいい。
健斗はヒステリックな母の声が少しでも遠くなるように、他のことを考えて意識的に耳を塞いだ。
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