1/4であなたに選ばれたいっ!

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1/4であなたに選ばれたいっ!

「私で本当にいいの」 「何言ってんだ。お前がいいんだよ」 「・・ありがとう龍矢」 「この国の未来ってやつに、子供達が希望を持てないのなら、それは俺たち大人の責任だろう」  五年前の国会で陸奥文科大臣が、野党議員との質疑応答で放った伝説の答弁の一説だ。  彼は高校までの義務教育化と、高校完全無償化を掲げ、更に教育委員会を廃止して、48都道府県に新たに文科省直轄の教育局を設置する事を、大臣就任演説で説いた。  そして札幌、横浜、神戸に教育特区を創り高校だけでなく、エスカレーター式入学での大学無償化実験にも乗り出す。そのスピードは尋常ならざるもので、閣議決定後の国会両院審議通過まで約五ヶ月で実行に移された。  教育特区の高校への定員数は330人。全国三箇所だから最大で990人だ。予想入試倍率は1200倍の超×3難関。そりゃそうだ。受かれば大学も無償化なのだ。当然だろう。  しかし陸奥文科大臣は特区高校への入試には、学力と内申点を重要視しない方針を打ち出した。 「その子の可能性ってやつをね。重視したいと考えている。ポテンシャルって言うんだっけ。それ」  この国に必要な物、足りない物は何か、その為に自分は将来どうするか、どうなりたいかを口頭演説で12000人の大人の前で発表する。それが入試課題の一つになった。  それと併せて世帯総年収が480万円以下で、尚且つ総資産額が500万円以下の家庭の子に限るとした。つまり持ち家があって自家用車なんかを所持していたら、受験資格は無いに等しい。  これには賛否両論があったが、陸奥大臣はガンとしてこの基準を曲げなかった。 「金が無くて学びたくても学べない子がいる。夢を諦めた子もいる。そんな子達に道を創り、その先で待ってあげられる社会にしようじゃない。ダメかいそれじゃ?」  まだ58才の政治家としては若き改革断行者の言葉は、10代から20代の若い世代の魂を揺り動かし、大きな畝りとなって社会全体を突き動かすに至ったんだ。
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