1. 強制的恋愛

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◇ _______3時間前。 それは拓真にとっては、いつもの一日のはじまり。 幸せな朝のまどろみは、突然の大声で無残にも破壊される。 「おーい、拓真!朝だぞ、起きろー!」 その如何にもけたたましい声で、毎朝7時ちょうどに叩き起こされるのだ。 「はあ、またか……」 拓真はベッドから虚ろに体を起こし、まだ半開きの目を擦りながら窓のカーテンと扉を開けた。 とたんに、初夏の眩しい朝の光と爽やかな空気が飛び込んでくる。 そして向かいの家の2階の窓_______すぐ目と鼻の先だ_______から、あいつがなんとも無防備にも、ブラにパンツだけというハシタナイ姿で身を乗り出して、こちらに手を振っていた。 そう、屈託のない満面の笑みを浮かべながら。 「拓真、おはよう!」 窓を開けたら、すぐ目の前に半裸のとびっきりかわいい女子高生がいた…… なんて端から見ればありえない光景だろうが、拓真にとってはいたって日常だ。 飛鳥拓真(あすか たくま)、ゲーム好きな、ごくごく普通で地味な高校2年生。 そして、彼女は同級生の神楽葵(かぐら あおい)。小さい頃からの幼馴染。 家が隣同士で、幼稚園から高校まで、ずっとクラスも一緒。 そして、もう何年も毎朝こうして、葵に叩き起こされるのが日課になっている。 「……お、おまえな、朝からそんなカッコを見せるなっての!」 「今更、なに言ってるの。昔は一緒にお風呂に入った仲じゃん!」 あっけらかんとした顔で、言い返す葵。 「それは、幼稚園の頃の話だろうがっ!」 「あれ、もしかして今じゃ、私のカラダ見て興奮しちゃうとか?」 拓真は、ハッとして思わず股間を押さえる。 「こ、これは正常な男子の、朝の生理現象だからっ!」 「ふーん」 不敵な笑みを見せる葵。 その顔は、とてもキュートだ。さらさらの黒髪、大きな目に小ぶりだがぷくんとした唇、そして笑うと出来るえくぼ。 ……いつからだろう。葵のことが好きになったのは。 拓真はふうと大きく息を吐くと、真剣な顔でじっと葵を見つめた。
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