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「なあ、葵」
「うん?」
「付き合ってくれ」
端から見れば、なんだコイツ唐突に、と呆れられるかもしれないが、これはもう、葵の顔を見るたびに口から出る挨拶みたいなもんだ。
もう、かれこれ何度このセリフを口にしただろう。百回?千回?いやいやもっと遥かに多い。
葵は、これまた真面目な顔になって拓真を見返すと_______いつものテンプレを返してくる。
「断るッ!」
「はあ、このやりとり、もう何千回目だよ。いいかげん、OKしてくれ……」
「やーだね!」
葵は顔をしかめて舌を出すと、窓をぴしゃりと閉めた。
告白しては、断られる。永遠に続くルーティン。
そう、これまでしてきた告白は数知れず。
ある時は、部屋に忍び込んで寝てる耳元で告白してみたり。
「好きだ」
「むにゃむにゃ、断る」
あえて嵐の中、ドラマティックに告白してみたり。
「好きだーっ!!(絶叫)」
「断る(冷静)」
意味も分からず、どこかで耳にしたシェークスピアの名言を呟いてみたり。
「愛とは、ため息でできた煙なのである!」
「?」
何故こんなやり取りを長年続けているのか、拓真にも既にわからなくなっていた。
言えることはただひとつ、葵のことが好き。それだけだ。
その感情は、いくら時が経とうが、何が起ころうが、揺らぐことはない。
これからも葵の顔を見るたびに、それが当たり前のように告白し続けるだろう。
だが、ここまで拒絶され続けると。
「はあ、やっぱり葵は俺のこと、眼中ないのかな……」
拓真は、力なくベッドの上に座り込み、がっくりとうなだれる。
「まあ、そうしょげるな。少年よ」
突然、どこからともなく聞こえてきた、そのしわがれた声に拓真ははっとして顔を上げた。
いつの間にか、拓真の隣に白い衣を羽織った老人が座っている。
長く生やした白ひげに、手に持った杖。その頭上にはうっすらと浮かぶ光輪。
気づくと、あたりはすっかり白いもやが立ち込めていた。
「だ、誰っ!?」
いきなり登場した謎の老人に拓真は驚いて、ベッドから飛び上がった。
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