1. 強制的恋愛

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「なあ、葵」 「うん?」 「付き合ってくれ」 端から見れば、なんだコイツ唐突に、と呆れられるかもしれないが、これはもう、葵の顔を見るたびに口から出る挨拶みたいなもんだ。 もう、かれこれ何度このセリフを口にしただろう。百回?千回?いやいやもっと遥かに多い。 葵は、これまた真面目な顔になって拓真を見返すと_______いつものテンプレを返してくる。 「断るッ!」 「はあ、このやりとり、もう何千回目だよ。いいかげん、OKしてくれ……」 「やーだね!」 葵は顔をしかめて舌を出すと、窓をぴしゃりと閉めた。 告白しては、断られる。永遠に続くルーティン。 そう、これまでしてきた告白は数知れず。 ある時は、部屋に忍び込んで寝てる耳元で告白してみたり。 「好きだ」 「むにゃむにゃ、断る」 あえて嵐の中、ドラマティックに告白してみたり。 「好きだーっ!!(絶叫)」 「断る(冷静)」 意味も分からず、どこかで耳にしたシェークスピアの名言を呟いてみたり。 「愛とは、ため息でできた煙なのである!」 「?」 何故こんなやり取りを長年続けているのか、拓真にも既にわからなくなっていた。 言えることはただひとつ、葵のことが好き。それだけだ。 その感情は、いくら時が経とうが、何が起ころうが、揺らぐことはない。 これからも葵の顔を見るたびに、それが当たり前のように告白し続けるだろう。 だが、ここまで拒絶され続けると。 「はあ、やっぱり葵は俺のこと、眼中ないのかな……」 拓真は、力なくベッドの上に座り込み、がっくりとうなだれる。 「まあ、そうしょげるな。少年よ」 突然、どこからともなく聞こえてきた、そのしわがれた声に拓真ははっとして顔を上げた。 いつの間にか、拓真の隣に白い衣を羽織った老人が座っている。 長く生やした白ひげに、手に持った杖。その頭上にはうっすらと浮かぶ光輪。 気づくと、あたりはすっかり白いもやが立ち込めていた。 「だ、誰っ!?」 いきなり登場した謎の老人に拓真は驚いて、ベッドから飛び上がった。
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