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毎回一緒。とくに一番知りたいことは、何度聞いても答えてくれない。
おじさんは、逃げる途中で小瓶を落としたと思い込んでる。腐ってく自分の死体に気づきもしなかった。雪が降ってるのに、まだ秋だと思ってる。
もう一ヶ月以上、同じところをぐるぐるぐるぐる。朝も昼も夜も、一日中。
あるはずない小瓶を、血眼になって探してる。
バカだね。僕たちはもう、とっくに終わっちゃってるのに。
「後悔はいっぱいしてるのに、ちっとも反省してないんだね」
――あの女のせいだ。あの女が悪いんだ。
おじさんの言葉は、いつもそればっかり。僕のお母さんの悪口ばっかり。
行動にも、なにも変化はない。たぶん、これからもずっと探し続ける。
意味ないってわかんないんだ。
死ぬことを選んだのは、やっぱりただの自暴自棄だったのかな。
このどうしようもない大人の心の中に、少しでも罪の意識があるのか知りたくて、僕は毎日のように話しかける。
コンティニューはない。はじめましてからやり直しだ。
今日はもう終わり。サッカーボールを拾ってから裏山を下りて、表の道路に出た。リフティングで暇つぶしをしてると、また犬の声がした。
前から歩いてくるのは、中学生くらいの女の子と、たぶんその父親。
雪にはしゃぐ女の子が握るリードの先には、真っ白なポメラニアン。
さっきもここを通った二人と一匹だ。
おじさんには、なぜが警察の人と警察犬に見えてたみたいだけど。
女の子が足を止めて、古い一軒家のほうを見た。
「ねぇお父さん、確かこの家だよね……あの事件があったのって」
「え? あぁ、男の子が突然死したっていう……可哀想になぁ。でもべつに事件とかじゃないだろ」
「噂になってるよ。男の子が亡くなってしばらくしてから、そこの裏山で男の人の遺体が見つかったって。服毒自殺らしいよ……だからさ、もしかしたら男の子の死因も……」
「おいおい、怖いこと言うなよ」
「だって、まだ子どもなのに突然死なんてある?」
「そんなの、父さんにはわからないよ……散歩コース変えようかなぁ」
親子はすれ違うおばあさんと挨拶を交わした後、僕のことはスルーして、のどかな散歩コースを歩いてく。
ふわふわ落ちてきて溶ける雪は、ちっとも積もりそうにない。
……べつにいっか。
雪遊びも、クリスマスも、もう僕には関係ない。
探し物を繰り返してる迷子のおじさん。どんどん幽霊みたいになってくお母さんを、見守ることしかできない僕。どっちのほうが可哀想なんだろう。
退屈になると、どうにもならないことを考えてしまう。
だから僕は、明日もおじさんで暇をつぶす。
おじさんがどっかに落としてきちゃった記憶。
何度だって、一緒に探してあげるよ。
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