迷子のおじさん

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 立ち入り禁止の裏山は、僕だけの遊び場だった。  だったっていうのは、サッカーボールを脇に抱えて立つ僕の前に、不審なおじさんがいるからだ。  寒空の下でなにかを探してるみたいに、地面ばかり見てうろうろしてる。これじゃあもう、僕だけの場所とは言えない。  暇つぶしに話しかけてみる。おじさんを見つけた時から、そう決めてたから。 「こんにちは。なにしてるの?」  僕のことなんか完全無視で、忙しなくあちこち移動する。丸まった背中を追いかけて、僕もうろついてみる。 「ねぇ」  おじさんの進行方向に飛び出すと、やっと顔を上げてくれた。 「……っ? な、なんだお前」  集中するあまりプチストーキングにも気づかなかったのか、おじさんは驚いた様子で、ずっと前のめりだった体を反らした。 「ねぇそれ、楽しいの? 飽きない?」 「遊んでるんじゃないんだ。……君、こんな山の中でボール遊びなんかするなよ。近くに広い公園があるだろ。それか、すぐそこの道路とか」  僕が持つサッカーボールを睨みつけて注意してくる。大人がよく言うセリフだけど、ようは邪魔だからどっかいけって意味だ。 「おじさん、小学五年生に道路を勧めちゃ駄目でしょ。田舎道だけど結構車通るんだから」  この辺りは少し開けた場所で、地面もなだらかだから遊べなくはない。どうせ一人でドリブルやリフティングの練習をするだけなんだから、なんの問題もない。 「ねぇ、手伝ってあげようか」 「はぁ?」 「探し物でしょ? どこだどこだーってイライラしながら、ずっと探してるじゃん」  おじさんは少し迷ったみたいだけど、躊躇いがちに口を開いた。 「……小瓶を落としたんだ」 「へぇ。大事なものが入ってるとか?」 「薬だよ。おじさん病気でな……すぐに飲まないと、命に関わるんだ」  深刻そうに答える。それを見て、思わず笑いがこぼれた。 「おい、なに笑ってんだ」  おじさんの眉間に見事なシワができた。  しまった。今のはさすがにリアクション間違えた。  ……でもね、ふざけたこと言うのが悪いんだよ。
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