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「手伝う気があるならさっさと頼むよ。時間がないんだ……」
「もっと感謝してほしいなぁ……まぁいいや」
サッカーボールを適当に転がして、足元の茂みを掻き分ける。
おじさんには悪いけど、本当は手伝う気なんてない。
探すふりをしながら、おじさんのひとり言に耳を澄ます。
「……なんでこんなことに……うっかりにも程がある……くそっ、あの女が悪いんだっ……脅したりなんかするから……」
土まみれになった大きな手。その薬指に食い込んだ指輪が気になった。
「結婚してるんだね」
「……ああ」
「奥さんのこと、愛してる?」
「……そんなこと聞いてどうする。お前には関係ないだろ」
「おじさんさぁ、サービス精神ないって言われない? 子どもは好奇心の塊なんだよ」
聞きたくなっちゃうんだ。僕はおじさんのことを、もっと知りたいから。
もっと僕のことを考えてほしいから。
山の中だからか、日が落ち始めると一気に薄暗くなってくる。
そのうち、ぱらぱらと雪が降ってきた。本気で探す気がない僕の興味は一瞬で雪に移る。
「今年は寒いね。……クリスマスにも降るかなぁ」
「クリスマスだぁ? いくらなんでも気が早いだろ」
「僕、クリスマス大好きなんだ。……お母さん、今年も祝ってくれるかなぁ」
一週間なんてすぐだ。だけどおじさんにとっては、たぶん違う。
もしかしたら、もう二度とクリスマスをお祝いできないかもしれない。そう考えたら、少しだけ同情してしまった。だけどやっぱり同情はいらない。
……おじさんの自業自得なんだよなぁ。
「ねぇおじさん、見つけたらどうするの?」
「どうって……言っただろ、病気の薬が入って――」
言葉が不自然に途切れたのは、犬が吠えたからだ。少し遠くで、ただ犬が吠えただけ。なのにおじさんは、血相を変えて辺りを見回してる。
忍び足で道路が見える崖のほうへ行くと、木の陰に隠れるようにして道路を見下ろす。
「くそっ……警察だ」
呟く声が聞こえた。振り返って戻ってきたおじさんは、すっかり怯えてるみたいだった。
「誰かに見られてたのか……? まさか通報されたんじゃ……」
狼狽えてぶつぶつ言ってるその姿が、僕の目には、とても醜い生き物として映った。
小瓶探しに戻ったおじさんは、車の音が聞こえたり、なにか物音がする度に周りを警戒してる。
……そろそろいいかな。
僕はおじさんの前にしゃがみ込んで、わざとらしい笑顔を作った。
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