7人の毒味囚

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あの少女も残り続けている。ただ、その残り方は明らかに俺とは違う。 俺は運良く食用に転用しうる異世界の食材に当たっているだけなのだが、少女が食べているのは明らかにアウトな食材ばかりだった。 瘴気(しょうき)を放つ、水晶の色のキノコ。(それは動物の死体から生え出ていた) メタリックカラーに輝くカエル4色。(誤って触れた職員は皮膚を焼け(ただ)らせて即死した) 悲鳴を上げ続ける紫色で人型をした大根。 どう見ても有害な食材を食べ続けながら、彼女は平気でいるのだ。 山賊の王が全身の血管を浮き上がらせて悶え苦しんだ末に死んだ。そして、ついに俺は少女と二人きりになった。どう考えても同じ条件でこの場所にいる訳じゃない怪物少女と。 「・・・・・・茶番はやめませんか」 不意に、執事が言った。 「そんな、滑稽な小芝居は辞めて正体を見せなさい。アナスタシア・ヴォワザ、悪霊の女王、災厄の化身よ」 清純で無垢な表情をした少女だけを見つめて執事は言った。 「・・・・・・なに?もう在庫切れ?」 「年増ババア。千年ものの腐れビッチ。本当の姿を見せやがれ」 牙を剥き出し、口調を一変させた執事。こちらが本当のコイツなのだろう。だが、何をバカな事を。アナスタシア・ヴォワザ?魔女の神は討ち取られたのだ。だからこそのこの世界の変容じゃないか。 「あら、失礼ねぇ。これが今の私。素っぴんよ」 「腐界転生術。禁じられし呪法。あの、女怪盗か」 「お前みたいな小物1匹殺すのに、この私を甦らせるなんて。小蝿(こばえ)1匹殺すために森を燃やすようなものね。あなた、何をしたの?」 背骨がゆっくりと凍結していくような不吉な感覚だった。冗談じゃない。何を言ってるのだ。 「とりあえず、あなた殺すわ。そういう契約だもの」 「・・・・・・ほざけ。お前はもはや空っけつのただの脱け殻だ。死の間際、世界に自分の魔力を撒き散らしたんだからな」 「・・・・・・あら、そう。自分が今どこにいるのか気づいて?」 少女がそう笑った瞬間、世界が斜めに傾いた。 少女以外のもの全てが斜めに傾いた世界を滑り落ちていった。 足首と手首の拘束具が命綱になって、俺はぶら下がった。人も物も、壁だったところへ墜落していく。 簡易キッチンが床を転げ落ちて、出入り口を突き破って落下していった。 ぶら下がりながら下を眺めていた俺は、簡易キッチンが墜落していった外を見た。 遥か、遥か眼下に、地上が見えた。豆粒以下のサイズに小さくなった王都。 「相変わらず下品で、バカデカイ魔力ですねぇ」 俺たちはこの巨大なドーム、アトラス宮ごと地上から引っこ抜かれて、遥かな上空を浮遊していたのだ。
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