7人の毒味囚

3/26
前へ
/26ページ
次へ
□□ 石壁を母親の母胎のように親しく感じるようになって久しい。どれだけの年月、洞窟の最奥部に作られたこの石の牢獄に繋がれていたのだろう。 この場所から引き剥がされ、どこか別の場所に連行されると知ったとき強烈な心細さに胸底が凍ったほどだった。 処刑されるのだ、と童貞を奪った郷里のアバズレと同じくらい久しぶりに拝んだ太陽を見てそう思った。 領主は気を変えたのだ。未来永劫、白骨化しても洞窟の最奥部に幽閉し続ける。そんな刑罰では生ぬるい。俺の事を何度も思い返すたびに憎悪を発酵させて、そう気を変えたのだ。 空高く吹き上がる間欠泉(かんけつせん)の真上に叩き込まれた。身体中にこびりついた積年の垢が落ちるまで、何度でもそこに蹴りこまれる。耳の穴が雨後の井戸になるまで間欠泉に身体をさらした後で、新品の服を渡される。 貧しい町民が着るような粗末な服とはいえ、新調された服を渡されるなど、どうにも様子がおかしかった。これから処刑する人間に服など与えるだろうか? 一応、手枷(てかせ)足枷(あしかせ)はつけられていたが、今までとは比べ物にならないくらい丁重な扱いで、俺は護送馬車に乗せられた。 「どこに行くつもりだ」 鎧兜に身を包んだ帝国軍兵士は、皮肉っぽい笑みを浮かべた。 「羨ましいぜ。このご時世に、たらふく飯を食える役得にあずかれるなんてな。えぇ?国崩しのゴランさんよ」 魔女の魂の色に汚染されたという大地を、初めて目の当たりにした。 木々、草木、虫。あらゆる自然が、魔女の邪悪な性質を帯びて人間を嘲笑っている。 都市につくまでに、いくつもの廃墟と化した街を通りすぎた。廃墟の街にはどこも、異形の魔物たちが(うごめ)いていた。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

472人が本棚に入れています
本棚に追加