7人の毒味囚

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以前見た、王都の優雅な景観はもうそこにはない。(そび)え立つ城壁が周囲に築き上げられ、周辺には鉄と汗の匂いが漂い出す砦が建設されている。殺気をみなぎらせた兵士たちの目。 俺が洞窟の最奥部で肉体を腐らせている間に、世界はまるっきり様変わりしていた。 城壁の内側には、慢性的な飢餓が生み出す恐ろしい荒廃の気配が漂っていた。 目ばかりが大きく潤んでいる痩せ細った子供。荒れた肌をし、身体を動かすのも億劫そうな女たち。毒素を含んだ食物を無節操に食って脳を侵されたのか、艶々した肥満体の男は通りを全裸で疾走している。 裏路地の奥で、ドブネズミの内臓をむさぼり喰っている数人の子供の姿があった。 「修道会や教会の、聖なる清められた土地の農作物や家畜以外はだいたい毒を帯びちまってる。狩りに行こうにもどこもかしこも魔物が溢れてて、軍隊の護衛がなきゃ城壁の外もろくに歩けない有り様だ」 褐色の肌をした護送役の兵士が言う。訊ねてもいないのによく喋る男だ。 広場に店を出した露天商たち、その陳列台は奇怪な動植物の見本市だった。 肥った中年女の顔を浮かび上がらせたトマトの群れが、広場を歩く男たちを主に性的なニュアンスで小バカにして笑っている。 網タイツを履いた女の脚を尻から5本生え出させた牛は、人間の子供の声で食べないで、食べないで、と泣きわめく。 一見マトモそうに見えた魚、その身体を内側から食い破って小指の先ほどのサイズの小人が無数にわき出してきた。 「子供たちは、あのおぞましい異物を口にしているのか」 褐色の肌の兵士は下卑た笑い声を口から垂らした。 「貴族や王族の子息以外はな。心が痛むか?え?革命戦士(アカ)のゴランさん」
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