7人の毒味囚

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カツン 背後でいきなりの足音。 今まで、人の気配などまるでなかった。この建造物に新たに入ってくる人間の姿もなかったはずだ。 執事姿の、異様にノッポな男が現れていた。空間から(にじ)み出た、と表現するのがしっくりくるような登場の仕方。 「これで全員ですね」 革靴を石の床に踏み鳴らしながら執事姿の男が回り込んでくる。気づかないはずのない足音。この男は確かに俺たちの背後に不意に出現したのだ。 魔術師、か。それも王国が直接雇用するほどの。最強クラスの魔術師。 「あなた方には、この国の命運を左右する大事な使命が与えられました」 何も持っていなかったはずの手に、レストランのメニュー表のような薄い冊子が握られている。 「異世界から転移される食物の毒味役。人類を救う大切なお仕事ですよ」 沈黙。表情は7人それぞれ。 海賊王が、ペッと唾を吐き捨てる。 「処刑方法の趣向を変えたってわけか」 異様にノッポな執事は、身を屈めて幼稚舎出たてにしか見えない少女に微笑みかける。 「いえいえ、処刑ではありませんよ。人類の功労者であるあなた方には素晴らしい特典を用意しております」 「・・・・・・」 「恩赦、ですよ。最後まで働いてくださった方には自由を差し上げます」 「・・・・・・」 「そんな疑わしそうに見なくても!ちゃんと約束は守ります」 異世界の異形生物を毒味する役。俺たちに、まともなものを出してくるはずがない。 「では、では」 執事が指を鳴らすと、一筋の電流が走った。 風が吹く。電流はその数を増す。広大な空間、その真ん中にエネルギーの渦が形成されようとしている。 台風が目と鼻の先で生まれでたみたいな感覚だった。ドーム内を席巻する暴風に目を開けていられない。 ズンッ・・・・・・・・・。 重い地響き。巨大な物体が目の前に落下したのが見なくても肌で分かった。 あれだけガランとしていた膨大な空洞の内部が、ほとんど隙間無く埋まっていた。 体長が100メートル近くもある巨竜(ドラゴン)の身体が、ドーム内の地面に横たわっていたのだ。 「異世界転生したSSS級のモンスターハンターが今朝、仕留めたばかりの獲物。エンシェントドラゴンの幼竜(こども)です」
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