プロローグ

2/2
前へ
/54ページ
次へ
 近年、とある研究施設で、とある実験が成功しました。  それは、電子空間を作り出し、そこに人間の心を投影して一つの世界を作るというもの――その世界を研究者たちは「心理世界」と名付けました。  彼らは考えました。  この世界に、人間の意識を飛ばせないか、と。  実験は成功しました。「心理世界」に意識のみを移動させることが出来たのです。ただし、それは「心理世界」を作った本人に限定されました。  そこで、研究者たちはさらに考えました。  この世界を何かに使えないか、と。  例えば……様々な要因で精神的に限界を迎えた人々を現実世界から隔離することで救うことが出来ないか、と。 「心理世界」にいる間、身体は眠り続けています。  意識を奪うことで身体を拘束し、結果的に最悪の事態を未然に防ぐ――それが現実的に可能なのか、この仮説は立証されるのか。そもそも需要はあるのか。  応用を利かせれば、もっと別のことにも役立てるようになるかもしれない。  それらの疑問を確かめるために実験が必要になり、彼らは希望者を募ったり、自ら足を運んで取捨選択をしたりして人々を集めました。  内容は至ってシンプル。  ただ被験者に自らの「心理世界」に留まってもらうというだけのもの。  ゆえに、ここはさまざまな「心理世界」であふれている。  ……おっと。私は誰か、って?  名乗るほどの者ではありませんが、こうとでも言っておきましょう。  私は――心理世界を旅する者である、と。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加