第三十六話

1/1
前へ
/144ページ
次へ

第三十六話

 夏姐さんが妊娠した。  もちろん次郎さんとの子供である。驚きはなく、やっぱりなと。トントンと進んでいった、二人の恋は。次郎さんは夏姐さんと付き合っても女装してわたしと一緒に買い物してたっけ。度々惚気話を聞かされていた。互いからそれぞれ。  二人曰くクリスマスベビーだとか。ああ、あの時の。夏姐さんが は40歳で10何年ぶりの妊娠、四回目だが高齢出産ともあり、今までにない症状、つわりで勤務中に倒れたのだ。あの強靭な彼女がだ。  やはり年齢には勝てなかったと。お酒好きの姐さんは禁酒を余儀なくされ(あまりえだ)うまく特別休暇を利用してるところがちゃっかりしている。  んで、その穴埋めがわたしにきたわけで。  毎晩常田くんに電話して愚痴を言う。彼は退院をして実家でお父様と慶一郎さんと男3人で暮らしているそうだ。未だにお母様は帰ってこない。なんとかやっていってるそうだが……。  ビールを開けてしまう。最近お酒ばかり飲んでいる気がする。 『梛、最近丸くなった?』 「そんなことないよ」  ……少し太ったというか身体のラインが緩くなった気もする。顔も丸くなったのかな。彼がそういうならそうなんだろう。  そう、常田くんとは電話だけでなくてパソコンでビデオチャットをするようになった。  彼の左目はこれ以上良くならないとのことだったがなんとか生活はできている。  仕事も来月から図書館の事務作業で働き始めるそうでなんだか生き生きしていた。 『とかいう僕もあまり運動していないからなぁー人のこと言われへんわ』  わたしの大好きな常田くんの笑顔が画面いっぱいに広がる。  離れて暮らしていること以外はもうほとんど前の時と同じ……キスやハグや……イチャイチャはできないけどね。 「じゃあ筋トレする?一緒に」 『あー、ええな。腕立て伏せするか?』 「それ、わたし負けないから」 『梛はすごいからなぁ……さすが空手部!』 「それは言わないでっ」    一人で住むのに本当に広すぎる。はやく常田くんと暮らしたい。 『気楽に気楽にー』 「悠長すぎるのよ、さぁ腕立て伏せするよ!」 『はーい』  そして今度、常田くんと久しぶりに会う。
/144ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加