3.露店街

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(ちょっとだけだったら……)    ランタンの明かりにテラテラと輝く肉が、こっちへおいでと囁きかける。シシィの身体が自然と屋台の方へと吸い寄せられ――寸前の所で踏みとどまった。 「ダメよシシィ! しっかりしなさい‼」    ペチン! と両手で頬を思いっきりひっぱたき、シシィは正気を取り戻す。 「お、お嬢ちゃん……? 空腹で気でも触れたか?」    屋台のおじちゃんが怖々とした目を向けてくる。シシィはそんなおじちゃんの顔を真っ直ぐに見て、重々しく切り出した。 「おじちゃん……私にはね、本命がいるのよ」 「ほ、本命……?」 「その肉巻きがどれほど魅力的でも、浮気はできないわっ……!」    血ヘドを吐く思いで言うと、シシィはクルッとおじちゃん――もとい、肉巻きに背を向ける。 (限定スイーツのために朝も昼もおやつも抜いたのに、ここで食べたら全てが台無しだもの!)    目的の店であるフェリチェは露店街を抜けて坂を上った先にある。この誘惑だらけの道は、心を無にしてすぐさま通り抜けた方が良さそうだ。
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