猫妖精の一夜の魔法

2．猫妖精の国

　シシィの生まれ育った国は、猫妖精の国と呼ばれている。

　人の世の隣にありながら、人には行くことのできない、猫妖精による、猫妖精のための、猫妖精の国だ。

　猫妖精は、国に入るための呪文さえ唱えれば、好きな時に好きな場所から、猫妖精の国と人の世を行き来することができる。

　そのため、見た目は普通の猫と変わらない彼らは、人里に繰り出して、普通の猫として思い思いに過ごすことが多い。

　中には人好きで人に飼われている変わり者もいる。

　そんな、ほぼほぼ猫と変わらない生活を送る猫妖精だが、ちゃんと妖精と呼べる一面もある。

　一年のうち、一日だけ、とっておきの魔法――人になれる魔法が使えるのだ。

　この特別な魔法が使える日を、猫妖精の国では「人の日」と呼び、人の姿になって人里へ出かける日となっていた。

　そしてこの日はちょうど、リヌエの月祭りと同じ日なのだ。