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助手席の男がぼやく。
「それにしても、遠いな……」
ハンドルを握る男がちらりと横目で見やる。
「もうじきに着く。ナポリに近い方がいいと言ったのはお前だろう」
「ゴミ集積所があるし、ターゲットの別荘もある。今夜はいろいろと都合が良いんだ」
窓から見える景色は真っ暗で、どこを走っているのか分からなくなりそうだった。舗装されていない道の両脇に鬱蒼と生い茂る木々は不気味ですらある。
「本物の幽霊でも出そうだ……あいつ、この道をひとりで抜けて行ったのか」
小柄な男が窓の外を見ながらこぼした。
「言っただろ、あいつは犬でありオオカミだ」
太った男が言い返す。
「牙じゃなく足で狩りをする。相手が疲れ果てるまで、地平線の果てでも、地獄の底でも追いかけるのさ」
そうして遠くまで行き、戻ってくる様子もまた、帰巣本能を持つ犬のようだった。主人と引き離されたコリーが、何百マイルの距離を歩いて戻ってきたというイギリスの短編小説も、名犬の物語として有名だ。
ヘッドライトが照らすタイヤの轍は一台分。助手席の男が付け足す。
「今回は追ってもいないだろうがな。逃げた形跡もないし、この時間だ。年寄りはとっくに寝てる」
今回の舞台となるログキャビンの間取り図は手に入れている。ヒットマンにも、依頼の際に同じ物を渡してあった。仕事を終えても、目撃者の有無を調べるため、しばらくそこに居るだろう。
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