序章 善意通訳

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運転席の男が前方を見たまま作戦を確認する。 「まずは俺が声をかける。返事があれば、仕事は終わったってことだ」 一人が玄関で気を引いているうちに、あとの二人が裏口から奇襲を掛ける。本来、狩りというのは群れで行なうものだ。 後部座席から不安げな声が返ってくる。 「返事が無かったらどうする?」 「道中にあいつの車があれば、十中八九キャビンに居る」 「でも……」 「三対一だぞ。イカれ野郎のくせに何をビビってる」 太った男が苛立ちまぎれに遮った。 「いくら殺しで食ってる奴でも、信頼した人間の前では油断する」 「コイツもあるしな」 痩せた男がそう言ってポケットから取り出した小瓶を振る。ラベルには『硝酸ストリキニーネ』とあるが、小柄な男には読めない。 「動けなくなったらズボンを脱がせて、ドンをよがらせたご自慢のブツも拝んでやろう」 下卑た笑いが起こる。やめろと窘めておきながら、気に入っていたらしい。 ひとしきり笑った後、ため息まじりのぼやきが続く。 「医療ビジネスの時代だってのに、わざわざ相手の元に出向いて殺しなんて……」 「そのお陰でこうして邪魔者を消せるんだ。あいつに最期の花を持たせてやろう」 犬死にではない、という事が同じファミリーである自分たちからの別れの手向けになる。そう運転手に宥めるように言われるが、助手席の男はポケットに瓶をしまいながら、思い出したように顔をしかめる。 「このオレ様が頭を使って稼いだ金より、あの犬のエサ代の方が高かったと思うと馬鹿馬鹿しくなる」 「仕方ねぇさ。しくじれば自分がやられるぶん、報酬も高い。ゴミ処理や女の斡旋と違って誰にでもできる仕事じゃねぇ」 ヒットマンとしての腕は優秀だと認めざるを得ない。これまで構成員として組織にもたらした安全と晴らした報復は、ファミリーにとって有意義で、必要なものだったと言える。
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