164人が本棚に入れています
本棚に追加
運転席の男が前方を見たまま作戦を確認する。
「まずは俺が声をかける。返事があれば、仕事は終わったってことだ」
一人が玄関で気を引いているうちに、あとの二人が裏口から奇襲を掛ける。本来、狩りというのは群れで行なうものだ。
後部座席から不安げな声が返ってくる。
「返事が無かったらどうする?」
「道中にあいつの車があれば、十中八九キャビンに居る」
「でも……」
「三対一だぞ。イカれ野郎のくせに何をビビってる」
太った男が苛立ちまぎれに遮った。
「いくら殺しで食ってる奴でも、信頼した人間の前では油断する」
「コイツもあるしな」
痩せた男がそう言ってポケットから取り出した小瓶を振る。ラベルには『硝酸ストリキニーネ』とあるが、小柄な男には読めない。
「動けなくなったらズボンを脱がせて、ドンをよがらせたご自慢のブツも拝んでやろう」
下卑た笑いが起こる。やめろと窘めておきながら、気に入っていたらしい。
ひとしきり笑った後、ため息まじりのぼやきが続く。
「医療ビジネスの時代だってのに、わざわざ相手の元に出向いて殺しなんて……」
「そのお陰でこうして邪魔者を消せるんだ。あいつに最期の花を持たせてやろう」
犬死にではない、という事が同じファミリーである自分たちからの別れの手向けになる。そう運転手に宥めるように言われるが、助手席の男はポケットに瓶をしまいながら、思い出したように顔をしかめる。
「このオレ様が頭を使って稼いだ金より、あの犬のエサ代の方が高かったと思うと馬鹿馬鹿しくなる」
「仕方ねぇさ。しくじれば自分がやられるぶん、報酬も高い。ゴミ処理や女の斡旋と違って誰にでもできる仕事じゃねぇ」
ヒットマンとしての腕は優秀だと認めざるを得ない。これまで構成員として組織にもたらした安全と晴らした報復は、ファミリーにとって有意義で、必要なものだったと言える。
最初のコメントを投稿しよう!