序章 善意通訳

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フン、と鷲鼻を鳴らす痩せた男。 「そもそも暴力での解決なんて時代遅れなんだよ」 言葉の端々に、自身の頭脳を鼻にかけているのが滲む。 「前にも抗争に子供を巻き込んだ大バカが居ただろう。あれで世間の顰蹙を買った、ファミリーの面汚しだ」 「あれは凄惨な事件だが、仕方なかった。店に居合わせた女と子供が不幸だったのさ」 太った男はそう言い、空いている手で十字を切った。 後部座席の小柄な男は何も言わず、表情を消して前方を見つめている。簡易的なシートの上で尻の座りが悪そうだ。 助手席の男が話し続ける。 「ましてや女の斡旋なんてのは〈ワイズガイ〉の精神に反する。組織云々以前に、男として恥ずかしい」 ワイズガイとは「聡明な男」を表し、シチリア島を拠点に活動した最大の犯罪組織の呼称でもある。その裾野は移民の波に乗り、アメリカ・ニューヨークにも広がっているとされる。秘密結社的な存在とされているが、世間との癒着によって知らないふりをされているに過ぎず、実際には誰もが知る存在だ。 まだそれほど大規模でも有名でもないが、ドン・カルロを頂点に据えた自分たちとて考え方は同じだった。過去から続く考え方を元にしつつ、これからの時代に沿ったやり方で、ファミリーを守り、大きくしていく必要がある。 世界的に見ても高水準を誇る大学への留学経験をひけらかすように、流暢な英語で続ける。 「イル・ブリガンテは〈スマート・マフィア〉であるべきなんだ。能無しも臆病者も要らない」
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