序章 善意通訳

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助手席のひょろりとした体がひねられ、後部座席を振り向いた。 「そんなスマートなオレ様が、おバカさんに分かるよう説明してやる」 くだんのヒットマンは、この男から今回のターゲットの始末を命じられた。馴れ合わずとも、ファミリーに絶対の信頼を置く忠犬は、確実に獲物を仕留めたことだろう。 しかし、それはでっち上げた嘘の依頼だ。 独居老人は有力な警察の成れの果てなどではなく、金融界の重鎮。医療機関にも顔が利き、彼が首を縦に振らないと、こちらのビジネスが成立しないような老害である。引退する様子も見せず、厄介な存在だ。 「その年寄りが自分のビジネスに邪魔だったから、あいつをだまして殺させるってことか?」 小柄な男が驚いたように聞き返す。初めて聞く話のような反応だが、彼はこの車に乗る前に、運転を担う男から大筋を聞いていた。記憶力や理解力といったものが足りないようだ。 「だましたなんて人聞きの悪い。スマートなオレ様は善意で、納得できるように言い替えてやったのさ。今みたいにな」  スマートという自称が気に入ったらしく、うさんくさい笑顔を浮かべ、話し続ける。
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