序章 善意通訳

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三人組を乗せたバンは速度をそのままに、走り続ける。それに伴うように、車内で繰り広げられる陰口も続いていた。 「ドン・カルロは何であんな奴を可愛がるんだ」 「可愛がられてるんじゃない。〈アルフィド〉が勝手になついてるのさ」 前列の二人の会話を、後部座席の男は黙って聞いている。 「自分に居場所──住む場所と仕事、ファミリーを与えてくれたと。マフィアになるべくしてなったようなもんだ」 マフィアとは、広義に犯罪を行なう集団・組織の呼称である。活動の目的は、主に富と権力を手に入れる事だ。 ファミリーの一番上にドンがおり、その下にアンダーボス、そして複数人のカポ・レジームという幹部が持つグループから成る。グループに属するのはソルジャーと呼ばれる構成員で、そのまた下にはアソシエーテという準構成員……と組織図はピラミッド型を模す。 構成員はそれぞれが需要と供給を補い合ってあらゆる仕事をこなし、それに関わる事でファミリーとして扱われる。バカンスに連れて行けず捨てられた飼い犬のように、行く宛をなくした野良犬にも、住む場所と仕事、そして仲間が与えられるのだ。 しかしファミリーと言えど、組織の下層、一端の構成員がドンやアンダーボスにお目通りする事は難しかった。 ドンの右腕として、法律などにも精通したコンシリエーリという相談役がいるが、それも幹部クラスのカポ・レジームが問題を抱えた際に頼る存在である。
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