序章 善意通訳

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「ひょっとするとアッチの意味で可愛がられてるのかと思ってたぜ。バターでも塗って……」 片手でハンドルを握ったまま、空いている手で耳たぶを弾く。人差し指にはゴールドの指輪がはまっていた。 「そんなはずがない。パスクアに向けて断食するような野郎だぞ」 「ドンへの忠誠心には抗えねぇんだろう。あんなに稼いでるくせして女の影も見せねぇし」 「カトリックの奴らは婚前交渉もしない主義なんだろ?」 助手席の男が確かめるが、運転席の男は思い出したように言い返す。 「昔、パーティーの後に人数分の女を呼んだが、あいつに宛てがわれた女は翌朝怒って帰っていったな……」 「売春婦にベッドで説法でもしたか」 「あるいはいつもみてぇにずっと黙り込んでたか」 トントン拍子に言い合いが続く。 「犬のモノは相当らしいから、テクニックの問題じゃねぇだろうな」 「やめろ。我らがドン・カルロが犬のアレでよがってる所なんざ……」 そこまで言い、前列のふたりは同時に吹き出した。 自分たちの首領がアナルセックスをしているシーンなど、見てしまったら両目を潰したくなることだろう。 首都ローマに内包されたバチカンを総本山とするキリスト教において、同性愛はご法度だ。 男女の相互補完、子を成し、種を繁栄させるのが自然とされている。性行為は快楽を得るために行われるものではないとし、厳密には自慰や婚前交渉、避妊、そして離婚も禁じられている。
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