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序章 善意通訳
──孤高を気取る一匹狼は、群れからあぶれた落ちこぼれだった──
市街地から離れた夜の森を、一台の貨物車が走っている。後部座席のシートは簡素で、積荷スペースが広く取られた大型のバンだ。中には男が三人。
「にしても、こんなに上手くいくとは思わなかったぜ」
ハンドルを握る太った男が言った。
「単純だったさ。いつも通りドン・カルロの名前を出せば真に受けた」
助手席の男が応じる。ひょろりとした痩せ型で、頭は車の天井につきそうなほど座高が高い。
「お前にとって復活祭と首領の命令と、どっちが重要なんだ?ってな」
「金曜から断食なんかしてただろう。その厚い信仰心を抑えこむほどの忠誠心だったか」
「あいつは居場所を失う事を何より恐れてるんだ。あんなナリして、実はとんでもない小心者なのは知ってるだろ」
後部座席に座った小柄な男が少し不安げに訊ねる。
「けど、ほんとに上手くいくのか? もし、あいつに嘘を伝えたって、上に知れたら……」
前列の二人は自信たっぷりに否定する。
「バレやしねぇさ。この事は俺たち以外、誰も知らねぇんだから」
「仕事について誰かに話してるわけもないだろうしな。一匹狼を気取ってやがるのが悪いんだ」
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