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第一印象
カッカッカッカッカッカッ
大きなミミズクが羽を広げて嘴で音を出して威嚇している。
大きくなった瞳孔で目線を逸らさず私の隣にいる夫を威嚇していた。
『威嚇されてる。』
「僕、そんなに怖いかな…?」
私達は、久しぶりに休日が合ったので動物園に行って動物達に癒されていた。
しかし、猛禽類エリアを歩いていると不穏な空気が伝わってきた。
ミミズクの前を左右に動いてみると、明らかに彼を見ながら嘴を鳴らして威嚇している。
試しに私が左右に動いてみたが、反応を示さず私を避けて夫を見ようとしていた。
カッカッカッカッカッカッ
『モテ期到来?』
「いやいや。」
お互い目を離さずに見つめ合うミミズクと夫が不思議に見えて動画で撮ってしまった。
あまり刺激するのも良くないので猛禽類エリアから離れて別エリアへ移動した。
『面白いものが撮れたから良かった。』
「僕、自然界だったら滅茶苦茶にされてるな。ねぇ僕の第一印象ってどうだった?」
『第一印象?』
「うん。ミミズクに威嚇されるくらい不審に見えたのかなと思ってさ。」
そう言われて最初の出会いを思いだした。
初めて出会った時、階段から落ちて血まみれだった私に絆創膏や付き添いをしてくれたのは夫だった。
親切で優しい方だと思ったが、本当の第一印象はこれだった。
『…前科ありの薬物中毒者?』
「これはまた詳しくきましたね…。」
『でも、目が大きくて可愛くかっこいい人だとも思ったのも事実。』
「うーん……胸がギュウとなった。」
目元を押さえて照れている彼を見て愉快だった。
しかし当時の彼は、今より痩せていたので申し訳なかったが犯罪顔に見えた。
『逆に私はどう思った?』
「…。」
『えっなんで黙るの?』
「…絶対関わっちゃいけないタイプの人間。あの闇の仕事やってる人かと思った。」
『私より詳しく言いましたね。』
確かに血まみれの人間を見たら疑ってしまうのも無理はないな。
そう思うと同僚と合流するまで付き添ってくれた彼は寛大で勇気があると改めて思った。
「でも、もっと話してみたいなと思ったし。あと、血も滴るいい女だと思った。」
夫の不意な言葉に驚いて目を見開いてしまった。
そして、頭に言葉が伝達され見事に吹いた。
"血も滴るいい女"と表現するのは如何なもんかと思ったが悪い気はしなかった。
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