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 小学生の頃の私は、凡そ達観していたと思う。  当時、私は母と二人暮らしだった。  と言うよりも、物心ついたころから母と二人で、小さな平屋建ての家に住んでいた。  父の記憶は、ほとんどない。  離婚したのだと言われれば、ああそうなのかと納得もしたし、亡くなっているのだと言われても、それはそれで納得したと思う。  最も、家には仏壇もなければ、額縁に入った父の写真もないので、生きているらしいことはわかった。  絵にかいたような母子家庭で、母は朝、私の登校を見送ると勤め先に出勤し、私が学校から帰ると家には迎える人は誰もいない。  母は夕方の6時を過ぎた頃に帰宅するからだ。  それまでは、自宅に一人きりか、誘われれば同級生と遊びに行ったりしていた。  一人で母を待つことが寂しいかと言われれば寂しいのかもしれないが、宿題を済ませ、学校の図書室で借りてきた本を読んだりしているうちに、時間はあっさりと過ぎて行くもので、そんなことを感じる間もなかった。  だから、本当は父は家出してしまったのだと言われても、なんら動じることもなく、淡々としていた。  まあ、その家出の理由が職務怠慢で解雇され、挙句に入れあげていたキャバクラのお姉さんに預貯金全部をつぎ込み、それが母にバレたからーと知った時は、こんな大人にだけはなるまいと密かに決意はした。  ついでに、結婚するのならば、質実剛健、質素倹約、謹厳実直な人がいいと心に決めた。  
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