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 達観していた小学生だった私は、特に嫌いなものもなかった。  昆虫、爬虫類、猛禽類、魚類、鳥類、菌糸類、苔類、シダ類、心霊写真(?)ーと、目の前に突き付けられても平然としている。  ここで、『きゃー、こわいっ!』とか、『キモイ!』とか、目に涙をためて逃げるとかすれば、まだ、可愛げがあっただろうし、揶揄い甲斐もあっただろうが、とにかく、無表情、無言を貫くのだ。  いや、別に何も思わなかったわけではない。  感想としては、『あ、こういうものもいるんだ。』とか、『幽霊っているのかな。』、だった。  こうなると、達観と言うよりは、冷めていると言った方が早いのだろう。  だから、その日も、目の前の光景をじっと見つめているだけだった。  同級生の男子数人が、白い、小さな蛇を棒で突いたりしてる。  まあ、いわゆる、アルビノってやつなのだろう。  『蛇』と言う時点で、遠巻きにされたり、追い払われたりするのだろうが、そこに小さくて珍しい、が加わったのだから、小学生にとっては格好の度胸試しの素材にでもなったのだろう。  「変なヤツ!」だの、「キモイ」だのと叫びながら、逃げ惑う蛇を棒で突いては追い回している。  生き物には変わりないのになーふと、そんなことを思ったせいか、私は彼らに近づくと聞いた。  「楽しい?」  「え?」  ひとりが驚いたように私を見た。  名前を知らないから、彼をAとしよう。  「子どもの蛇なんかいじめて、楽しい?」  「こども?」  もう一人が不思議そうに言った。  こっちはBでいいや。  「だって、子どもじゃない。こんなに細くて、小さいのって。」  「でも、キモイ。」  さらにもう一人、やっぱり名前を知らないので、Cとした。  「キモイなら、近寄らなきゃいいじゃん。」  「女のくせに!ヘビ、キモイだろっ!」  Aが言った。  だから、なんで『キモイ』ものをわざわざどつくんだろう。  「キモイなら、ほっとけばいいと思うけど。」  「生意気なヤツッ!」  Aはそう言うと、くるりと背を向けて駆け出した。  その後を慌てて、BとCが追いかける。  三人を見送りながら、私は溜息をついた。  これで明日からは、貧乏人の『びんちゃん』に『生意気』と『キモイ』が加わって、『ナマキモびんちゃん』とでも呼ばれるんだろうなって思った。  まあ、蛇の子どもなんて放っておけばよかったのに、自分で首を突っ込んだんだから、これが『自業自得』ってヤツなんだろう。  貧乏人も本当だし、同級生の他の女子ならばアルビノの蛇を見たら『キモイ』と言うだろうし、明らかに厄介そうな男子三人組を止めようなんて思わないだろう。  やってしまったものは仕方がない。  とりあえず、明日からの対策としてーせめて、自分の努力だけで何とかなる勉強だけはきっちりしておこうと思った。  貧乏人で生意気でキモイバカじゃあ救いようがないだろうから、出来る努力は怠らないのが、この、何ともならない状況で生き抜くための私の知恵だった。
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