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3.
「母上様、質実剛健とは、なんでございましょう?」
小さな蛇が大きな白い蛇に尋ねた。
「心も体も強いことですよ。」
母蛇が答えた。
「では、質素倹約とは、なんでございましょう?」
再び、小さな蛇が尋ねた。
「贅を凝らさず、慎ましやかに暮らすことですよ。」
また、母蛇が答えた。
「では、もう一つ、謹厳実直な人とは、どんな人でございましょう?」
もう一度、小さな蛇が尋ねた。
「正直で真面目な人のことですよ。」
母蛇は答えた。
「わたしはそのような人になれるでしょうか?」
小さな蛇がもぞもぞしながら、尋ねた。
「ほほほ…何を言うかと思えば…あの娘が気に入ったのですね?」
「はい。わたしが伴侶となりたい。」
「人の娘を嫁御に迎えるのならば、あの娘にはこちら側にいらしてもらわねばなりませぬ。ですが、母一人娘一人の二人暮らし、母は伴侶に恵まれず、この先の苦労もおそらくは前世の因果でしょうが、あの娘が母の全て、奪うことは許されません。」
母蛇は言った。
「ならば、わたしが人の側に参ります。人として、あの方にお仕えします。」
小さな蛇は体を伸ばして、母蛇に向かって言った。
「なんと…そなたは私の大切な子。いずれは、この母の後を継いで蛇神となる身であるのに…」
「母上様には、お子が100もいるではありませんか。それに人の一生は、瞬きほどのものと聞きました。あの方の一生に添い遂げても、母上様はまだまだ蛇神でおられるでしょう?」
「ほほほ…分かりました。あの娘の願いを聞き届けたのは、ほかならぬ私です。そなたが質実剛健、質素倹約、謹厳実直な人になれれば、あの娘のもとに遣わしましょう、辰巳よ。」
それから、10年後ー
『真堂辰巳』という青年が、彼女の前に現れたのは、また、別のお話。
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