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魔王たるものが、こんなにも人間と仲良くなってどうするのだ、と。
側近たるもの、魔王の身辺警護は24時間365日休むことなく行う。魔王とはまさに魔界の「人柱」であり、魔王を通じてこの世界の「根源」から魔力を供給してもらっているのだ。魔王が倒されれば、魔物すべてが弱体化してしまう。
まあ、しかし今日はもう問題も起きそうにない。魔力も安定しているし、魔王の機嫌も上々だ。自分と対等にかかわってくれる相手というものを、常に王族は欲している。崇められ続けられることは、生き物にとって多大なストレスになる。いつか、死に至るほどに。
自宅に帰り着いたジンは、駆け寄ってくる侍女たちに一言ねぎらいの言葉をかけると、自分の部屋へと向かう。ジン以外誰も立ち入れない部屋に。
「……ご機嫌はいかがですか、お姫さま」
クローゼットをあけると、そこには絢爛豪華な銀髪を一面にながす幼い少女がいた。両手両足を厳重な縄と鎖で拘束されながら、少女は痛がりもせずにゆるゆると瞳を開ける。紫色の右目と、銀色の左目が、ジンを見据える。その目には喜びも怒りも宿らず、何千年もいきた仙厓の域にあった。
ジンは、呪印の掘られた手のひらで、少女の陶器のような頬をなでる。
魔王とは、魔界の「人柱」。魔王が倒されれば、魔物すべてが弱体化する。では、その魔物とは、いつからこの世にあり、なぜ人間と敵対したのか。
「さあ。原始の姫。駒はそろった。――そろそろ人間たちを、滅ぼしに行くとしましょう」
ジンは艶やかに微笑む。銀水晶の眼鏡がきらめき、魔界には、一滴の波紋が投げられた。そして人間界は、また一歩、終わりへと、近づいたのだ。
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