~冷徹秘書の秘密の時間~

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 ルクシエルは嬉々として告げる。  あたらしい発見を共有したくて仕方ないようだった。 「魔王様もギルドや王城に所属し、管理者のもとで働くようになれば、残業代もつきますわ! みなし残業時間も今より減るかもしれません!」  魔王は、このルクシエルという存在をどう扱っていいのか困っていた。もとは生贄聖女である。人間国からの差し金であり、本来なら魔界にとどまっていい存在ではない。だが、魔王暗殺に失敗したのだ。今更人間界に戻しても処刑を待つだけだ。  なにより、天然というには恐ろしいほどの一般常識との乖離。「聖教会」が孤児を無教育なまま放置したゆえの産物かと思ったが、労働基準法や聖典を読むだけの知力はある。つまり、この世間とのズレは、生贄聖女自身の元来の性格だともいえる。 「……第一に、魔界では自営業者であっても、残業代はでる法設備となっている」 「まあ、なんて効率的な社会運営!」 「第二に、魔王を管理するのはいったい誰だ? 前代魔王は俺が就任すると同時に退いている。長老もいないし元老院もない」 「では、神様とか?」 「ルクシエルを生贄聖女として教育した神に? 俺は耐え忍ぶのは嫌いだ。不当な扱いを受ければ即糾弾し人間界を滅ぼしにかかる。そして第三に、結局はひとの目が許さんさ。俺が魔王である限り、魔界に使い倒されるのは決まった運命さ」 「まあ……」  ルクシエルは心底悲しそうに囁いた。 「魔王様も奴隷のようなものではありませんか! もっと自由に、お過ごしになってはいかがです!」 「……いまだに首枷をはめたがる元奴隷な貴様に言われたくはないんだが」
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