~冷徹秘書の秘密の時間~

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「中間管理職兼、対外営業マン兼、人間界への防波堤兼、いざという時の人身御供! ここはやはり、自営業者の労働組合を法整備して魔王様の人権も取り戻すべきかもしれませんわ!」  ぐっと拳をにぎるルクシエルに、魔王は、頭を抱える。  ルクシエルという人間がこの魔界に来てから、魔王は頭髪が薄くなったような気がするほど毎日心労が絶えない。ジンは「寿命は長いんですから、たまにはそんな日があってもいいでしょ」というが、命の長短にかかわらず、胃の痛みだけは取り除きたい昨今である。 「……法整備するのはどこの部署だ?」 「ええと、魔界法務省とかでしょうか?」 「魔王はあだ名だからな。正式にはユキトラス政府内務省長官。三権分立の観点から言えば、俺から法務省に労働基準法を作れとはいったら独裁政治になる」 「つまり……一生雑用係ってことです?」 「……………そういう、ことだな」  魔王の胃がまた軋み始めた。目をそらしていた事実が、言葉にすると重くのしかかってきたのだ。 「……ハーブ園を作りましょう」 「……ん?」 「魔王様の肌が青白くて血色もなく、髪もぼそぼそで、目の下もクマだらけで、夜も突然ベッドから立ってバルコニーから飛び降りようとする夢遊病患者だったのも、すべて過労が原因ですわ! すぐに仕事は減らせなくても、まずハーブティーでストレス解消はできます!」 「ちょっと待って。俺そんなにひどい? てか夢遊病患者も初めて知ったんだけど!」 「ジンさんがいつも結解張ってるんです! バルコニーと、庭に! 何度か落ちてるので骨折は人間界から誘拐した神父さんに治してもらってるそうです!」 「そゆこと早く言って!? ええー。俺やっぱり休みたいです! 休みます!」 「はい! 首のうしろに手刀を落とすとよく眠れるそうですよ!」 「そういうことじゃないけどね!?」  ――そもそもハーブティだけで軽減できるストレスじゃない。  水晶にうつる魔王と聖女をみながら、ジンは軽くため息をついた。
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