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#1 設計図通りにはいかない世の中で
マスク、消毒、外出自粛にテレワーク。
密を避け、接触を避け
ソーシャルディスタンスがルールとなる日々の
ある夜だった。
「俺たち、来月入籍することにした。夏休みで引っ越ししてさ、アリサと二人で住もうと思う。」
我が家で冷やし中華を食べながら
ウッチーは言った。
「ほう。そうか、良かったな。」
冷やし中華を勢いよく
ずばばばっと食べ、しっかり咀嚼するとコウは
キッチンで麦茶をいれる私の方を向いて
「ジュリア、きゅうりの細切りはまだあるか?このゴマだれ、ウマイよ。この味でたらふく食べたいんだが」
嬉しそうに笑った。
「あるよ、たくさん食べてね」
きゅうりの細切りを盛ったお皿と
麦茶を3つ持って、テーブルに移動する私に
「ねー、二人ともちょっとは驚いてよ!わぁっと盛り上がるとかさぁ、『ほう』じゃねーだろ!他に言うこと無いの?俺、アリサと結婚するって言ってるんだよ?」
ぶつぶつ言い始めるウッチーに
コウは反論を繰り出した。
「あのなぁ、そういう報告をだな、冷やし中華を食いながら言うお前のタイミングについて俺は疑問だよ、さらっと言うな!さらっと流すだろが!っていうか、小嶋と二人で畏まりつつ正式な挨拶として言うもんじゃないのか!」
「そこかよ!もー、斉賀うるさい。最近仕事でも小言が多いしなんか鬱陶しいって自覚ある?ってか正式な挨拶って、お前は俺のオヤジか何かなの?……あっ、ちょ、っ!俺のカニカマ取るなよ!ふざけんなよ!最後に食おうと思ってたのに!」
ぶうぶう、ぎゃあぎゃあ。
大騒ぎになりながら
山盛りのキュウリはゴマだれをまとって
二人のお腹に吸い込まれていった。
「……で、式はどうする予定だ。小嶋のご親族は可愛い娘の晴れ姿を見たいことだろう」
お腹にひとごこちついた二人は
今後の予定を話し合う。
その問い掛けにウッチーは
アリサちゃんと二人で話し合って決めたことを
淡々と答えていった。
こういう世の中だ、式は折を見て。
住まいを共にし、入籍だけ先にして
日頃より世話になっている関係各所や
親しい友人知人には挨拶状を郵送する、というものだった。
コウは頷きながら
「では夏に小嶋の故郷へ行って、ご挨拶を兼ねた食事会をしたい意向を伝えるといいだろう。先ずご両親にお伺いを立てて、お呼び立てしても差し支えない方の人数と受け入れ可能の良き店を確保して……感染防止対策に明るい店がいい。そういう地元のことは小嶋のご両親と相談だな。それから……」
レポート用紙を取り出して
会話のメモを取りながら、どんどん話を固めていく。
それはまるで自分の事のように
ウッチーに恥をかかせまいと
事を磐石に組み立てていく物言いに
ウッチーは嬉しそうに笑っている。
すごく嬉しいなら
すごく嬉しいって
おめでとうって、すぐに言えばいいのに。
私は、そんな二人を見て
微笑ましくて仕方がなかった。
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