その1

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その1

 私君枝 陽子(きみえだ ようこ)は、青春を謳歌したい。しかし現状はどうだ。友達一人いない。小、中の時もいなかった。笑い声が独特で、「ふへへ」と笑ってしまう。ついたあだ名がキモいと名字を合わせて『キモ枝』だ。よく考えるものだ。おかげでボッチの名をほしいままにしてしまった。高校ではそんなことがないように通学に1時間かけて遠いところに進学した。そして、地味な生活を送っていた中学生時代を鑑みて入学前からオシャレに気を使うようにした。つまり高校デビューを目指してたわけだ。まあ失敗に終わったわけだが。もう一つの失敗はクールなキャラ作り。話しかけづらい雰囲気を作り出してしまった。きれい系なメイクにハマっていたのでそのまま採用してしまったのが間違いだった。おかげで一年のもうすぐ夏休みというのに未だ中庭の目立たないところでお昼を食べる始末だ。小さな夢もあった。放課後に友達とファミレスで喋ったり、写真を撮ったり、プリクラ交換したりしたいことたくさんあったのに。夏休みなんて青春の宝庫じゃないか。最近は諦めも出てきて放課後夕日がきれいに見えるところで一人寂しく眺めるのに時間を使い始めてしまった。眺めながらインスタにあげれるように写真を撮ったりしていた。完全にお一人様の趣味。しかしそんな胸の張れる趣味ではない趣味が功を制した。彼女と出会ったのもそんな趣味の最中だった。  今日私が夕日を見るポイントに決めていたのが工場跡地がある所の屋上みたいになっているところだ。一人夕日見ながらボケーとしていた写真を撮ったりもしていてなかなか味のある写真が撮れるようになっていた。しかし今回は取らずにこうしようああしようなんて構想を練っていた。良いところまで考えられたところで帰ろうとして後ろを振り返ると人がいた。 「うわぁ!」  びっくりして声を上げるとその人はイヤホンを外しながら謝ってきた。 「ごめんごめん人がいるなんて思わなくてさ。ここで何しているの?」 「ゆ、夕日が見たくて」 「そうなんだ。ここの夕日きれいだよね。」  そう言って私の隣に座る。その人はとてもきれいな人なのに喋り方はどこかゆったりとしている不思議な人だった。そこからは二人並んで沈みゆく夕日を眺めた。沈黙。この人は気まずくないのかな見知らぬ人と隣に並んで。沈黙に耐えれなかった私は話しかける 「ここにはよく来るんですか?」 「ん?そうだね。と言うかそこの二階建てのプレハブ小屋の二階部分私が勝手に秘密基地にしているんだよね。」  秘密基地って小学生みたいなことしてるな。と言うかよく見たら私と同じ学校じゃないか。気付かなかった。何年生なんだろう。同級生だったらいいな。友達になってくれるかもしれない。考えてみたら出会い方もなんだか物語みたいでワクワクするものがある。どうしよう親友になれてしまうかもしれない。無理だな。どれだけ着飾ろうともボッチはボッチである。私の心が荒れている時に夕日は沈んでしまった。 「夕日沈んじゃいましたね。」 「そうだね暗くなる前に出ようか。ここ出るなんて噂があるからね。」  そうなんだ。知らなかった。やめてほしい。私そういうの苦手なんだよな  私とその人は工場跡地の出入り口のところで別れた。あの人おんなじ制服来ていたし明日探してみようかな。もしかして初めての友達ができてしまうかもしれないということ私の心は踊っていた。  しかし、次の日学校では見つからなかった。私の学校では学年ごとに使うロッカーが違がっていて。同じ学年だったらわかるので、違う学年だったのかも。先輩の可能性も出てきたな。どうしよう先輩だったら後輩ということで可愛がられてしまうかもしれないどうしよう嬉しいかも。  しかし、次の日もその次の日も見当たらなかった。何人といるから探しにくいというものもある。けれどとてもきれいな日人だったし見間違えることもないだろう。もしかしたらあの場所に行ったらもう一度会えるかもしれない。行こう。初の友達ができるかもしれないとなると私は血眼になっていた。こういうところが友達のできない一因なのだろうが。  例の夕日を見たところに向かった。そう言えばプレハブ小屋の二階を秘密基地にしているとも言っていた。いってみようかな。いざ行こうとすると自分の気持ち悪さに気付いてしまった。我ながらやばいやつなのではと。そうなってしまうと話しかけられるのを待つ行動に移ってしまう。夕日を見て待つことにした。もうすぐ沈みそうになっていた時に 「今日は来ていたんだね。久しぶり」  後ろから声をかけられた。 「こ、こんばんは」  いざ話しかけられると何を話していいのか分からなくなる。その人はよっこらせと言いながらまた隣に座る。二人並んでまた夕日を眺めた。沈んでしまう前に私は覚悟を決めた。 「…え教えてください。」 「ん?ごめんよく聞こえなかった。もう一回いいかな?」 「名前教えてください。私は君枝って言います。」 「私は樫井って言います。よろしくね君枝さん。」  こうして私は友達の第一歩を踏み出せた。私は嬉しくてつい 「ふへへ」  やってしまった。気をつけていたのに出てしまった。気が緩んでしまった。嫌われてしまう。そう思っていたのに返ってきた言葉は予想外の言葉だった。 「ずいぶん可愛い笑い声だね。見た目と違うからものすごく可愛いよ。」 「え…」  びっくりした。これで私はキモ枝なんて言われていたのに 「ごめん可愛いってのは嫌だったかな?言葉が素直に出てしまった。」 「そうじゃなくて初めて言われたからびっくりして。この笑い方のせいでキモいなんて言われたことがあったから。」 「そうなんだ。気にすることなんてないよ。私はその笑い方好きだよ」  この一言で救われた気がした。友達ができることよりも嬉しかった。ありがとう樫井さん。  次の日も行って秘密基地に案内してもらったりもした。着実に仲良くなっていった気がした。相変わらず学校では会えなかったけど秘密の友達みたいでとても楽しかった。明るくなったのだろうかちらほらと同じクラスの人からも話しかけられるようになってきた。ファミレスにも行けた。学校にも友達ができた。このことを話そうと工場跡地に向かった。しかし樫井さんの姿はそこにはなかった。次の日もその次の日も来なかった。私は一つの考えに至った。初めて彼女と会った時のこと彼女はここに幽霊が出ると言っていた。もしかして彼女は幽霊なのかもしれない。悪い幽霊ではなく良い幽霊で友達のできない私の自信をつけてくれるために現れてくれたのかもしれない。神様みたいな感じ。いつかまた会えたのならお礼を言いたいと思う。うざいかもしれないけど自慢しちゃおう。
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