補助金戦争 ~文化祭の前のお祭り~

3/7
前へ
/7ページ
次へ
 ***  あっという間に1週間が経ち、調整会議当日。 「お集まり頂きありがとうございます。それでは調整会議を始めます。何か要望がある方、挙手して下さい」  生徒会長、白鐘美加の一言に続き、各部が様々な理由をつけて増額の申請をする。意見の嵐は小1時間ほど吹き荒れ、出尽くした会議室は再び静寂に包まれた。  しかし、ここからが本番である。 「はい、白鐘さん!」 「……海賀さん、どうぞ」  やや怪訝そうな美加に促されて(くゆり)が素早く席を立つ。前の席の人が皆、振り向いて彼女に視線を向けていた。 「私が確認したい相手は鉄道部です。部長の桐岡君、いいですか?」  どよめく教室内を、美加と別の生徒会役員がタッグで静める。 「こっちは特に話すこともないけどね」  会議室前方で桐岡が起立し、事もなげに答えた。一見すると爽やかそうな顔立ち。黒髪ミディアムヘアーを、ちょっとだけワックスで遊ばせている。 「企画を調べたけど、今年鉄道部は、先月廃線になった安島(あじま)線という鉄道を撮りに行ったのよね。8月7日に出発して、この都心から4時間くらいかけて田舎の方まで旅行して、動画と旅行冊子にまとめた。その面白さと使用経費が認められて、一押し企画扱いで2万円増額になってる」 「別におかしいところはないよね? 面白いけどお金かかる企画をやったら、生徒会が認めてくれました、ってだけの話で」  桐岡の問いを(つま)んで食べたかのように、口に手を当てて考えた後、燻が口を開いた。 「引っかかってるのはそこなのよ。もしこの企画が一押しにならなかったら経費は自腹だったかもしれないんだけど、どうする気だったの?」 「そのときは払うだけさ」 「これまで20年間、変わらずに毎年フリーペーパー作って模型走らせてただけの部活が急にそんな博打打つかしら?」 「……驚いた、過去のことも調べてるなんてね」  目を丸くする彼に「あら、今のことだって調べてるわよ」とケロッと返す。 「アナタ達が上映する予定の映像、友達の部員に借りて見せてもらったわ。とても面白かった」 「ありがとう。自信作だからね、喜んでもらえて嬉しいよ」  どちらも目は笑っていない。楽しさも喜びも、顔に貼り付けた演技。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加