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「ただ、二つだけ気になったわ。まず、出発のシーンでは部員のみんなが映ってるのに、列車のシーンになったら誰も映らなくなるってこと」
「せっかくの貴重な画に僕らが入っちゃいけない気がして」
「なるほどね。私は別の意味があったのかと思ったけど」
「別の意味?」
「あの映像、誰かが撮った電車の映像に、鉄道部の声を乗せてるんじゃない?」
「……どういうことかな?」
「鉄道好きは全国にいるし、広いネットワークを持ってる部員もいるはずよね? その部員が、あの安島線の映像をもらうの。で、そこに自分達の音声を合成して、まるで撮ってきたかのように見せてるってこと」
「じゃああの旅館はどう説明するの? 僕らもちゃんと映ってたじゃないか」
「そこが気になったところの二つ目よ。アナタ達、『藤野屋に泊まってます』って映像の中で言ってるわよね? 確かにあの近くには藤野屋って旅館があったわ。でも、映像の中で旅館の名前が出てるシーンが全然なかった。つまり」
目線を桐岡から外さず、燻がはっきりと言った。
静まる大会議室。グラウンドで響く運動部の声だけが、窓越しに響く。
「藤野屋じゃなくて、この近くのテキトーな旅館に泊まったんじゃないかなって」
「ふうん。海賀さんは、僕たちが安島線に乗りに行く旅行をしたフリをしてるって言うんだね。なんでそんなことする必要があ――」
「決まってるじゃない。補助金をもらうためよ」
彼の言葉を遮り、ありったけ強調する燻。それを聞いて、桐岡はワザとらしく溜息をついた。
「憶測にすぎないね。もう元々の動画ファイルは消しちゃったから、口でしか反論できないのは残念だけど。藤野屋に電話して確認してみたら?」
「あら、知ってるでしょ? あの旅館、もう閉館したの。私疑り深くてさ。わざと電話確認できないような旅館を選んだ、とか妄想しちゃうのよね」
「ふふっ、ホントにただの妄想だね」
2人の口の端から、クックと笑い声が漏れた。
「じゃあ海賀さん、もう終わり——」
「さて、本題はここからよ」
桐岡の言葉を、低い声で遮る燻。
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