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「面白いニュースがあるの」
ゆっくりと話し始めた彼女は、クリアファイルからプリントを取り出して、桐岡に渡す。
「アナタ達が見てきたっていう安島線のニュース。大筋はこんな感じね、『町は安島線の車両を労い、花束の描かれたステッカーを車両の前に貼った。運行最終日まで貼られる予定』。このニュース知ってた?」
「ううん、知らなかったよ」
「まあ知らないわよね。この町の地元ニュースのサイトから漸く見つけたんだもの」
「で、それが今回の話と関係あるのかな?」
燻が目を細めて、口を弓なりに曲げた。
「大アリよ。それ、8月5日のニュースなのよ」
「…………」
穏やかな表情のまま、言葉を返さない桐岡。
「花束のステッカーは少なくとも5日には貼られてたってことになるわ。でも映像ではステッカーは映ってなかった。つまり、あの映像はアナタ達が行ったと言っている8月7日より前、8月4日以前に撮られたものってことよ」
「……ふうん。まあ確かにステッカーはついてなかったね。汚れたから外して掃除したりしてたんじゃないかな」
感情を揺らさない彼のリアクションに、燻はやれやれという感じで手を開いた。
「そう言って躱すと思っていたわ。でもね、桐岡君。私、納得いかないことはとことん調べないとダメな性分でね。アナタ達が8月7日、実際にはどこに行っていたのか。ちょっと調べてみたの」
「参ったなあ。ホントに物好きなんだね」
呆れたような笑い顔でパンパンパンっと拍手してみせる。燻は、クリアファイルから数枚のカラー写真を取り出した。
「旅館の食事に一瞬だけ映ってる白玉の入った汁物。群馬の郷土料理、鏑汁よね。それにこのお茶請け。包み紙が白っぽくて、赤い紐が結わえてあるおまんじゅう。これも群馬土産、しかも主に県北でしか販売してないお土産よ。
ここから近いし、良い地域選んだと思う。群馬のその地域の旅館は約1000軒、候補は絞れたわ」
「絞れたって、海賀さん、1000軒じゃどうしようも——」
「簡単じゃない。全部電話して確認すればいいだけよ。8月7日に男子高校生9人が泊まりに来なかったかって」
「は……?」
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