補助金戦争 ~文化祭の前のお祭り~

5/7
前へ
/7ページ
次へ
「面白いニュースがあるの」  ゆっくりと話し始めた彼女は、クリアファイルからプリントを取り出して、桐岡に渡す。 「アナタ達が見てきたっていう安島線のニュース。大筋はこんな感じね、『町は安島線の車両を労い、花束の描かれたステッカーを車両の前に貼った。運行最終日まで貼られる予定』。このニュース知ってた?」 「ううん、知らなかったよ」 「まあ知らないわよね。この町の地元ニュースのサイトから(ようや)く見つけたんだもの」 「で、それが今回の話と関係あるのかな?」  燻が目を細めて、口を弓なりに曲げた。 「大アリよ。それ、」 「…………」  穏やかな表情のまま、言葉を返さない桐岡。 「花束のステッカーは少なくとも5日には貼られてたってことになるわ。でも映像ではステッカーは映ってなかった。つまり、あの映像はアナタ達が行ったと言っている8月7日より前、8月4日以前に撮られたものってことよ」 「……ふうん。まあ確かにステッカーはついてなかったね。汚れたから外して掃除したりしてたんじゃないかな」  感情を揺らさない彼のリアクションに、燻はやれやれという感じで手を開いた。 「そう言って(かわ)すと思っていたわ。でもね、桐岡君。私、納得いかないことはとことん調べないとダメな性分でね。アナタ達が8月7日、実際にはどこに行っていたのか。ちょっと調べてみたの」 「参ったなあ。ホントに物好きなんだね」  呆れたような笑い顔でパンパンパンっと拍手してみせる。燻は、クリアファイルから数枚のカラー写真を取り出した。 「旅館の食事に一瞬だけ映ってる白玉の入った汁物。群馬の郷土料理、鏑汁(かぶらじる)よね。それにこのお茶請け。包み紙が白っぽくて、赤い紐が結わえてあるおまんじゅう。これも群馬土産、しかも主に県北でしか販売してないお土産よ。  ここから近いし、良い地域選んだと思う。群馬のその地域の旅館は約1000軒、候補は絞れたわ」 「絞れたって、海賀さん、1000軒じゃどうしようも——」 「簡単じゃない。全部電話して確認すればいいだけよ。8月7日に男子高校生9人が泊まりに来なかったかって」 「は……?」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加