Darkest time

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 メアリルボーン通りをそのままずっと行って、少ししたら曲がって、ベーカー街に入ってちょっと進んだ。すると、去年仕事が決まったことを報告しに訪れた伯母の家があった。伯母の家を訪ねるのはあの時以来だ。そう考えると、恥ずかしすぎてノックもできない。しかし、叔母に会わないことにはこれからの生活は始まらない。僕は深呼吸をして、叔母の家のドアを叩いた。 ノックして数秒後に見慣れた懐かしい人が出てきた。伯母だ。 「あらまあ。」 相当驚いたような様子だった。 「久しぶりね。ちょっとびっくりしちゃったわ。」 「手紙もよこさずに急に来てごめん、ジェーン伯母さん。」 「とりあえずまぁ、入って入って。」 伯母は中へ案内してくれた。家の中は去年来た時とはあまり変わらないかんじだった。僕はコートを脱ぎ、部屋の隅っこにあった椅子に掛けて、その椅子に座った。窓を見ると馬車や人が行きかうベーカー街が目に入る。ここが世界有数の大都市たるロンドンだからか、心なしかみんな忙しそうに見える。こんなだとくつろごうと思っても、なかなかくつろげない。  伯母が紅茶とビスケットを持ってきてくれた。 「なんで手紙もなしにここへきたの?」 開口一番、伯母は聞いてきた。僕は正直に話した。 「……ヘマを、したわけじゃないんだ。」 伯母はうなずいてくれた。 「でも、勤め先をクビにされちゃって……ほら、父さんも母さんも僕もういないから……。」 僕は泣きそうになった。そうだ。父さんは交通事故で、母は病気で死んでいる。だからこそ僕は伯母以外に頼る人がいなかったんだ。それにしても、この一年はほんとついていない。頭を抱え込んで、僕は言った。 「自分がどうなるのか、僕にはわからない。まるで、そうだな、なんか、インクよりも黒い何かが僕を包んで、連れ去ってしまいそうなんだ。」 言っている言葉は自分でも意味が分からなかった。そんな僕を見かねた伯母が、僕の頭をなでながらこう言った。 「二十年ちょっとしか生きてないのに、そんな人生諦めたようなこと言わないの。大丈夫よ、アンソニー。悪いことがあっても、すぐにいいことが巡ってくるから。」 この時の伯母の言葉は単なる励ましにしか聞こえず、にわかには信じがたかった。
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