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その後何日か、伯母の家で過ごした。職をなかなか見つけられない自分に焦っていたが、伯母はそんなことも気にしない風で
「ゆっくりしていきなさい。」
と言ってくれるのだ。ありがたい。だが、いつまでも伯母に迷惑をかけてはいられない。僕の焦りが最高潮に達しそうになったある日、それは起きた。
伯母に世話になってから一週間後ぐらいのことだったか。その日は確か日曜日で、夕方に気晴らしに散歩にでも出かけようと思って伯母の家の近くにあった大きい公園(後で知ったのだが、リージェンツ・パークというらしい)に行ったのだった。
ただなんの目的もなく歩いていたら、後ろから自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「アンソニー!アンソニー・ハドソン!」
振り返ってみると、旧友のダニエル・ステイプルトンが手を振っていた。僕は彼のもとへ走っていった。このロンドンという大がいくつついても足りないような都市で旧友に会うことなんか僕は予想だにしていなかったから、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
「久しぶりだなぁ、ダニエル!」
「やあ、アンソニー。元気そうで何よりだ。」
僕らは二人握手をし、肩を組み合った。
その後僕らはパブを探し出してそこで飲むことにした。
「乾杯!」
ウイスキーを飲みながら、僕は彼に今まで起こったことを簡潔に話した。ダニエルはなんとも言えない顔をして
「災難だったな。」
と言ってくれた。
「で、今職無しなわけか。」
「そうだよ。今手に持ってるのはわずかな退職金と紹介状だけだ。ほぼ一文無しさ。」
「そうか……。力になってやりたいけど……」
ダニエルは必死に考えていてくれたようだった。そして。
「そうだ、そういえば!」
あまりにも急だったからびっくりして、僕はむせてしまった。
「ゴホッゴホッ……ど、どうしたんだよ?」
「君の職だよ!」
「どんな?」
僕は彼の言葉に、一縷の期待をかけていた。
「俺のじいさんが、どこだったか忘れちまったけど、執事やってるんだ。前によこした手紙で人手不足だっつってて、もしかしたら今もそうかもしれないから、お前いけるんじゃねえの?」
僕は天にも昇るような喜びに包まれた。やはり、持つべきものは友だ。
「今すぐ教えてくれ。どこだそれ。」
僕はダニエルにこれでもかというほどに顔を近づけた。まるでキスでもしそうなくらいの間合いだった。
「わかった、わかった。」
ダニエルは苦笑して言った。
「俺がじいさんに手紙書いといてやるから、一週間くらい待っててくれ。」
そんなやり取りをして、僕らはパブを出た。遅く帰ってしまったから伯母がすごい心配していた。
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