464人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんな中、その戦争を止めようとした人物が居ました。 誰だと思いますか?」
「え......? それはその......一番強いあやかし......かしら」
いきなりの問いにしどろもどろになりながら答えると、ルーシェさんはフッと微笑んだ。
「ふふっ、違いますね。 止まる筈の無かった、お互いを滅ぼし合う解決法しか無かった私達の戦いを止めたのはただの人間です。 人間の中でも身体が弱い男の人。 ですがその瞳には強い意思を感じさせる人でした」
昔を懐かしむその表情はどこか儚げで、そして私がたまに彼に向ける優しさを秘めていた。
だから私は聞いてしまったのだ。
「好きだったんですか、その人が」
「......ええ、愛しておりました。 誰よりも深く、深く......」
「あの......その人とは......」
そう問うと彼女は苦しげに微笑み。
「私は選ばれませんでした。 結ばれたのは和の国で雪女という種族の雪花と呼ばれた白銀の髪の女性でしたから」
「そう......なんですか......」
今でも心残りがあるのか、顔を曇らせてしまった。
私もどう言えば良いのか見当もつかず視線を泳がせていると、気づいたルーシェさんが申し訳なさそうにはにかむ。
「お気になさらずに。 なにぶん昔の事ですので。 あのお方も相当昔に亡くなっておりますから。 それに今は楽しみもあるのです」
「楽しみ?」
「はい。 20数年前にハガミオオカミが封じられて、デモンエクスにとって安寧の時代がやってきました。 それから数年後に雪花様の言葉を聞き届けていたぬらりひょん様が18年程前に雪花様とあのお方の娘をコールドスリーブから目を覚まさせたと聞いています。 お会いしたいものですね」
コールドスリーブと言えば、冷凍漬けにして成長を止める方法だったかしら。
最初のコメントを投稿しよう!