不機嫌なハニー(仮)

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「ようやくみつけた!マイハニー。マイスイート」 ハニーさんハニーさん呼んでますよ。 耳に入って来る雑音にそんな事を思うが今の俺にはどうでもいい事だった。 俺は目の前にそびえ立つパンケーキのタワーににんまりとする。 ほわっほわのパンケーキにもこもこの生クリーム。 あちこちにちりばめられた宝石のような果物たち。 並ぶ事4時間! くぅ―――――待たせたなっ!マイハニー! って、影響されちったぃ。 まったく今時マイハニーって、笑える。ぷぷぷ。 恥ずかしい事言わせんなよ。 ハニーさんも恥ずかしいのは分かるけど、早く返事してやれよ。 俺は鼻歌交じりに目の前の甘い誘惑にナイフを入れようとした。 したんだが、その腕を誰かに掴まれてしまった。 「ハニー!」 「――――え?何???」 顔を上げるとそこには異世界人がーって、いや違うんだけどね。 でも、別世界の人なのは分かった。 顔面偏差値高っ。 よく見ると着てるものも上質なものだと分かる。 整った顔立ち、キラキラと輝く金の髪。 吸い込まれそうな菫色の瞳。 あまりの事に俺はぽかんと口を開けたままその男をみつめてしまった。 「みつめられると照れてしまうな。ふふ」 ぽっと頬を真っ赤にさせて乙女のように恥じらう男。 え?え?え? 「ハニー、ハニー?」 いつまでも動かない俺の肩をゆさゆさと揺さぶる。 「え?俺?」 「さっきから呼んでいるじゃないか」 「えー。誰あんた。俺、あんたの事知らねーし、ハニーじゃねーし」 「何を言うんだ。あぁ愛しのハニー。長い間放置してしまって拗ねているのかい?」 「ハニーハニーって俺の名前も知らねーだろう?初対面でハニーとかないわー」 「ハニーはハニーだろう」 あー話通じね―――! 「それに初めて会ったわけではないぞ?」 「え?いつ?」 「え――と…。その、あれは―――10年前…?だった、か?ハニーが海でおぼれかけた時に…」 「あぁ?俺水泳超得意だし、溺れた事なんかねーし。嘘つくなよっ」 「ごほんごほん。まぁなんだキミはマイハニーそれは動かしようのない事実なんだ」 うっわ、こいつごまかしやがった。 何が動かしようのない事実だよ。そんな事実最初っから影も形もありません。 「ところでハニー。パンケーキを食べなくていいのかい?」 「―――あ!」 そうだよそうだよ!俺には愛しのパンケーキちゃんが…! ……………。 あんなに輝いていたパンケーキが萎んで果物は転がり落ち……。 俺の…、俺の…俺の……楽しみにしてたパンケーキがぁああああああああ! 「―――――くっ」 じわりと涙が滲むが止められず、子どもみたいに泣きだしていた。 「は、ハニー?何で泣いている?何が悲しいんだい?」 俺の涙にわたわたと慌てだす男。 小さい子をあやすように俺を抱き上げぽんぽんと背中を優しく叩く。 嫌なのに、なぜか男にそうされると安心する俺がいた。 「ほら、いい子だ。私がいるから大丈夫だぞ。もう泣かない、泣かない」 男の声にふっと潮の香りがした気がした。 だけどここはパンケーキ屋。潮の香りなんかするはずもなく、きっと何かの勘違いだ。
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